第14話 兄弟
「第一皇子のゼルマーク様、第二皇子のジュゲンズ様、カトリーヌ様の娶るのはどちらか、決めるのは、王様に御座います…… 」
「そうなの? 私はてっきり…… 」
チビの小太りだとばかり思っていたのだけど。
「はい、それは、皆もそう思っておりました。
しかし、王様は思慮深いお方、両国の和を成す最も良い道筋を、お考えとのことです…… 」
きっと、長男はカラフセィカ、次男はル・アドゥフーリカへ行かせ、両国とも手中に収めるつもりなのだろう。
順番から言ったら長男だが、 外にだすなら次男だ。
その勿体ぶった言い訳でも考えているのだと思う。
蛮行とまで言わないが、この国の王族は、少々血の気が多い。
噂ではなく、事実としてル・アドゥフーリカにまで話しは届いていた。
現王様に、お后は、2人いる。
子である2人は異母兄弟だ。
歳は7つも離れている。
2人目のお后は、王宮付きの騎士団にいた娘だそうだ。
やったら出来たから迎えたと言う、無茶苦茶な王族なのだ。
後宮に入れておくなんて穏便な話は通じないらしい。
何より娶った理由が "強いから" だと言う。
訳が分からない。
元が騎馬民族の血筋なので、軍国と名乗るだけあり、強さは一つのステータスらしい。
チビデブの長男よりは次男の方が期待できるだろうか。
会った事もないけれど。
そんな滅茶苦茶な王族に仲間入りしなくては、ならないのだから、苦労するのは間違い無さそう。
早い段階で2人を殺すか、もっと時間をおいてから事に及ぶか、様子を見ないと分からない。
逃げ道の確保すら出来てないのに、何も初められないのが本当のところ。
「いち! に! さん! 」
翌朝、私は王宮の裏庭で剣を振り稽古をしていた。
体がなまりきっている。
ヒュリカと一緒の頃、少しは鍛えたのに、これでは元の木阿弥だ。
移動中は馬車の中でずっと、監禁状態だったの、だから仕方ない。
「へぇ、剣を振るんだ? 」
「え? 」
背後から声をかけられ振り向くと、そこにいたのはひょろい青年と、少年の間のような微妙なお年頃の男の子だ。
手には木刀を持っている。
「おかしいかしら? 」
「いや、おかしくない…… いいから続けて…… 」
「そう? 」
ヒュリカから教えられた型をはじめる。
跳んで伏せて、結構ハードな型だ。
初めて見た時はカンフーの曲芸みたいで驚いた。
合間に蹴りを入れたりもする。
極めて実戦に近いものだと、私は思っている。
「すごいや、騎士団の連中のとは大違いだ…… 流派とか何かあるの? 」
「護衛の娘から教わったのよ、 だからじゃないかしら…… 」
「へぇ、護衛か…… 良いこと聞いた…… あ、行かないと怒られるから、またね…… 」
男の子は屋敷の方へ駆けていく。
木刀は一度も振らず終いだった。
「カトリーヌさまぁ! こんなところにおいででしたか! 」
息を弾ませて側使いの娘が来る。
早朝から何も用事はないはずだけど。
洗顔から始まる朝のお手入れが、はじまるのだとか。
そう言えば昨夜そんな事を言っていたような気が、しないでもない。
今日はまず国王様、そして御后様にご挨拶するらしい。
皇子2人は、後回しとか。
別に理由とかは知りたくない。
きっとどうでもいい理屈だろうから。
「ル・アドゥフーリカ皇国より参りましたカトリーヌ・ルスゼントに御座います…… 」
終始私は、頭を垂れて口上を述べた。
表を上げよと言われてないから。
「良く来た、カトリーヌ嬢よ、 表を上げるがよい 」
嬢って、ちょっと失礼な、言い方ではないのだろうか。
王とは見下してナンボとかなのかもしれない。
「………。」
王様は相変わらずの野性味溢れる見た目のままだ。
日サロの常連のように日に焼けた肌色で、現場のひとつもやっつけてから来たと、言わんばかりの、腕っぷしをしている。
体格も大きくて、職業はプロレスラーと聞いても驚かない。
その脇でちょこりんと、座っているのがお后様だ。長男の体格は奥様似だからですねと、言ったら怒られそうなので、黙っていよう。
お后様の後ろに控えるのが第二婦人なのだろうか。
王様と背が余り変わらない。
しかも長い髪はウエーブして雰囲気がちょっと独特だ。
何より腕も細くないし、胸も主張が強いし、何より頭の上に生えた獣耳が種族を物語っている。
獣人族の人だ。
しかもイジメられる方の獣人族。
獣人族自体は、特に珍しくはないが、外見によっては、目立つ種族ではある。
見た目が、人と変わらない人もいれば、この人のように頭に耳が生えていたり、長い尻尾を生やしていたりすると、格好の餌食となる。
差別されイジメられるか、優れた身体能力を使って人より抜きん出るかしないと、いい目には合わない奇特な種族だ。
エルフやドワーフ、ホビットなどは、特徴の割に差別されたり、はそれ程多くない。
とかく不運な種族が、目立つ方の獣人族と言われている。
やはり、人より抜きん出て今の地位を勝ち取ったのだろう。
獲物を見るような目で見られているような気がするのは、やはり気の所為だろうか。
つつがなく王様との謁見を終えた。
部屋から下がり廊下に出たところで人影があった。
「久しぶりだな、カトリーヌ…… 」
そこにいたのは第一皇子した。
その後ろにいるのは、今朝会った男の子。
「弟のジュゲンズを紹介してやろう、少し生意気だがな、護衛の代わりにはなるだろう 」
ペコリと頭を下げる男の子。
兄の許しがないと喋れないとか。
背は兄弟で逆転している。
顔も似てない。
体型も逆だ。
このどちらかと結婚するのだと言われたら、間違いなく弟の方に決まってる。
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