第11話 魔女のいろは



 魔女の反応は意外と早かった。

 またあの派手な包みを持ってきた者が城の門番に渡しに来た。

 すぐに数人が後をつける。

 一方で城内では王陛下に包が届けられた。

 また小箱が現れる。

 今度はパピルスしか入ってなかった。


 書き出しは "憐れな国の憐れな王様"

 娘は人形にした。

 親から大切にされない憐れな姫は、人形となり永遠に王を呪い続けるだろう。

 要職の席も金も必要ない。

 カラフセィカへ人形の姫を嫁がせるル・アドゥフーリカ皇国に惜しみない憎しみを

 魔女リグンジャ"

 と、あった。

 

「くっ! 魔女め! 好き勝手ぬかしおって! 」


 顔を真赤にして怒りに震える王様。

 臣下の者達も姫様並びに犯人の魔女を捕らえんと発奮するも、時間だけが過ぎていった。

 そんな中、臣下の一人が部下からの報告に顔色を変えた。


「自らを姫だと名乗る人形と、姫を助け出したと言い張る農夫を見つけました! 」


「なぜだ? 何処にいた? 」


 包みを届けに来た者の後をつけていた部下が街外れの民家に入る姿を見届けた。

 そして、その家に踏み込んだ結果、その者達がそこに居たと言う。

 

「人形が喋るだと? 喋るように、見えただけではないのか? 」


 王の疑問にこたえるように、城にその者達が連れて来られた。


「お父様〜! 見て! こんな姿に! ああ、もう、 終わりよ! 全て終わりだわ〜! 」


 涙は零さないものの、泣き叫ぶ人形は、娘の口調に良く似ていた。

 どうせ、誰かに操られていると、人形だけ別室に連れて行かれる。

 側使いのルクリアに確認させれば、すぐにバレるだろう。

 それより、魔女から人形を取り返したと言い張る農夫の方が、怪しい。

 形だけの礼を言うと、細かな事情を聴き取るからと、これも別室へと連れて行かせた。


「きゃああああぁぁ!!!」


 女の悲鳴が城内に響き渡った。


「カトリーヌさまぁ! 」


「ルクリアぁ〜! 」


 姫様の側使いは、真偽を確かめると言う使命を忘れ、姫様の変わり果てた姿に涙を禁じ得なかった。

 ワンワンと泣く両者。

 "泣いても涙も出ないのよ" と、姫様が言えば、"おいたわしゅう御座います" と側使いは涙する。

 傍から見てもよいコンビ。

 阿吽の呼吸と言うのだろうか。

 傷を舐め合う2人の会話は途切れる事を知らなかった。


 一方、農夫達の主張は一筋縄ではいかなかった。

 "褒美をくれ" 3人の農夫はそれぞれそう主張した。

 肥溜め(糞尿を肥料にする為、一時的に集めて保管しておく場所)に見慣れぬ布袋を捨てていく一行を見たと言う。


「こりゃ、褒美貰えっか? 」


「いや、それだけではどうだろうな…… 」


「んじゃ、話すの辞めた…… 金になんねぇなら畑耕しに行くべ…… 」


「全部話を聞いてからじゃないとな、褒美が欲しいなら、もっと知ってる事をは話して貰わんとだな…… 」


「そいで、全部はなして、やっぱり褒美はやれねえって、言われたら、おら、タダ働きだぞこれ、 そんな、口車に乗るわけあんめーし! 」


「そうだ、そうだ! お役人様は、口が立つから、オレら農夫なんてぇ、いつも、馬鹿みて、畑耕すしか、ねぇんだ! やっぱし畑さ行くべ! 褒美なんて貰えるわけねぇんだからよ! 」


「いやいや、ちょっと待て! 褒美は出す! 褒美は出すから、よ〜く聞かせてくれないか? 」


「んだども、褒美は何くれる気してるだ? 」


「いっづも足元見られて値切られて、切ねえ思いばかりはもう、飽き飽きだぁ! 」


「はあ…… 」


 欲に目の眩んだ農夫は一筋縄ではいかなかった。

 彼らは良く仕込まれた魔女リグンジャの一味だとバレるのはもっと、先のことだった。



「あんっ…… 」


 私は、上目遣いにヒュリカを、軽く睨んだ。

 ふいに胸を触られたから。


「あー、そーゆー顔するんだ、 なんとなく、納得したわ…… 」


 人形の頃と仕草が一緒だとヒュリカは、指摘した。

 抗議のこもった視線は多少感じていたと彼女は言う。

 そして、その時の顔が、こうだったのかと実際に見て納得したらしい。

 

 白い肌、茶色の髪、耳すぼまり横へ伸びる。

 エルフの特徴を良く示した外観は、この国の姫に相応しいものだ。

 かつて影から覗き見て観察したお姫様は、ワガママでぞんざいな態度だったが、ロフレシアが演じると、おしとやかで上品に見える。

 ヒュリカにそう言われて私は、頬を赤らめた。

 単に肉体を気遣って、いるだけなのだが、結果的にそう見えるらしい。

 魔女の術は素晴らしい。

 受肉とは本当に出来るとは知らなかった。

 影にも潜れるし、手の先も剣になる。

 放ちはしないが、魔法の矢も槍も出せた。

 日課になりつつあるヒュリカと剣の練習の際も、素早く動けるのは確認済だ。

 魔法が、使えるのは誰にもバレてない。

 いざと言う時には、切り札になるはずだ。

 この頃は逃げるのではなく、魔女リグンジャの一味を捕まえるにはどうすべきか考えている。

 一生逃げ回るよりその方が、現実的だ。

 賢者様の元へ戻るのはもう、無理に思っている。

 行方不明になってからそろそろ1年は越えていた。

 探されていると聞いた事もないし、人形ですらなくなっている。

 ロフレシアですと名乗り出て、果たして分かって貰えるだろうか。

 ならこのまま別人として生きるのも悪くないように思っている。

 それには、悪い魔女一味を捕まえなくてはならない。

 そう思うと自然に剣の練習にも力が入った。

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