第7話 罰


 こんなの見たくないのだけど。

 今週はずっとその姿で過ごすようにと言い渡され、2人は青い顔をして下がっていった。

 ひょっとしたら、もっと酷い目に合うところだったのだから、こんな生温い罰で溜飲を下げる訳にはいかないのだけど、仕方ない。


 既に外は夜。

 引き留める隊長を振り切って、私とセンチャンさんは、屋敷へと戻る。

 押収品は、まだ、返して貰えず。

 男の尋問はまだ行われていなかったとか。

 手柄を優先して私達を先に処理した結果がこれ。

 本来なら、門は閉じている時間。

 そこを無理を言って開けさせ森へと向かう。

 センチャンさんを背負って私が駆けた。

 半日かかった道のりを、かなり短縮出来た筈。

 屋敷についたら、黒猫のミシャルナが、半分酔っ払って、出てきた。

 賢者様と酒を飲んで夕食代わりにしていたとか。

 見つけたチーズや、干し肉をツマミにして、料理のできない2人は、酒盛りを始めたらしい。

 慌てて私とセンチャンで料理を作って、遅い夕食となった。

 "たまには、こんなのも良かろうよ" と、賢者様は気にしてないご様子。

 そんな、森の中の屋敷に遣いの騎士が来たのは明くる日の事だった。

 盗人の男の取り調べが行われた。

 押収した品物は返却されるので取りに来て欲しい。

 遣いの者が伝えてきたのはその2点だ。

 今度は私だけで行く事になる。

 さすがにセンチャンさんと私の2人が同時に家を空けるのは宜しくないと反省した結果だ。


 遣いの騎士に連れられて私は、街へと向かった。

 明らかに私を警戒している遣いの男。

 だから何と問い詰めてやりたい。

 来いと言ったのは誰なのかと。

 短剣は一本、金貨は4枚。

 持って帰るのはそれだけ。

 道すがら、言葉少なに声をかけてくるが、チラチラと、盗み見るような視線は心地悪い。

 終始、早足気味に移動したが、街に着いた頃にはすっかり日も沈んでしまっていた。

 門番が焦れた様子で閉めるか閉めないかやってる所に間に合った。

 ここでも、人形を入れて良いのかと問答がはじまる。

 人なら身分証を提示するか、入街税を払うかしないと入れない。

 センチャンさんは、身分証の代わりになる紋章の刻まれたプレートを私に託さなかった。

 必要ないと、判断したからだろう。

 それがあれば、スムーズに入れただろうか。

 いやそれでもきっと、人形だからと揉めたに違いない。

 門番の騎士は昨夜の事は知らないのだろうか。

 それとも知ってて嫌がらせをしているのか。

 どちらでもいい。

 遣いの人も騎士だし、互いに納得行くまで話し合ったらいいと思う。

 よく見ると、遣いの騎士と門番の騎士とで、身につけてる装備の色が違う。

 階級の違いとか、所属の違いとか何かあるのだろうと予想できる。

 階級の違いなら上の者の言い分が優先されるだろうから、話し合いになるとは考えにくい。

 とすると、所属とかの違いを示すものなのだろう。

 

「なら、簡単に改めさせて貰う 」


 話し合いが、決着したらしい。

 門番の男は、私のスカートに手をかけておもむろに捲った。


「変なものは隠してないな…… 」


 聞こえるようにわざと言う。

 それだけで、街に入るのを許された。

 後ろで "下着なんかつけてやがる" と不埒な会話が聞こえていたが、無視する。

 嫌がらせをしたかっただけらしい。

 そのまま、騎士団の建物に行き、短剣と金貨を受け取った。

 パピルスに受け取りのサインをすると、驚かれた。

 字が書けると。

 それだけのことなのに、何故だろう。

 用が済むと、早々に騎士団の建物を後にする。


 街で私は、目立つ。

 人形と言うだけで。

 暗くなり、人通りの減った表通り。

 それでも全く人が居ない訳ではない。

 騎士団の敷地の入口には、松明を焚いて灯りにしていた。

 飲み屋なのか、酒の匂いと喧騒が聞こえる店先にはまだ、人がいる。

 漏れた灯りの光が通りを照らす。

 それを、避けるように、進むが、見る人は何処にでもいた。


「うお、アレ何だよ? 」


「人形じゃねえか? 」


「なんだよ、アレ、気味悪りぃな 」


 酔っ払いたちは、いい話の種だと口々に言い合う。

 まだ手を出して来ないだけマシだと思う。

 走って移動したら誰にも見られないだろうけど、そうはしなかった。

 そうはしなかったが、足元の暗闇に体を沈めた。

 このまま街の外まで行ってしまおう。

 それが一番、安全で確実だから。


 それから、幾度となく街への御使いを任された。

 その際に街へ入る為の身分証として、私にも紋章の刻まれたプレートが与えられた。

 これがあれば、何を言われても後ろ盾があるのだと跳ね返す事が出来る。

 プレートの意味が理解出来ない者には無力ではあるが。

 街に出入りする人形と、示す紋章は大賢者のもの。

 噂が噂を呼び、私に集まる視線は更に多くなったように思う。

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