第6話 先輩と後輩



「お前、あれか、手でこうやるのは出来るんだろ? 」


 私の前で指で丸を作り、上下させる先輩騎士。

 私にご執着らしく、後輩が止めるのも聞かず、私の前から動こうとしない。

 ここは、風俗店の面接会場か。

 私の顔に表情がつくれたなら、どれほど蔑んだ目で、この男を見た事だろう。

 能面のように動かない顔が恨めしい。

 "さあ?" と小首を傾げると、男は私の手をとって上下させた。


「こうやるんだよ、 な、簡単だろ? 」


「先輩、そろそろ、はじめませんか? 」


 はじめるって、なにを?

 私は顔から血の気が引く。


「あーと、 お前さ、あの〜、ドワーフに言われてだな、他にも人をやっただろ? 」


 面倒くさそうに尋問をはじめる先輩騎士。


「分かんないか? 分かんないよな、命令された事しか出来ないってよ、覚えてないってよ、 以上。 」


 勝手に調書になにか書き込む先輩。

 "まあ、そうっすよねぇ" と後輩も頷いている。


「でな、続きを教えっからな…… 」


 私を使って気持ちよくなりたいらしい先輩の熱心な指導が再開された。

 それをつまらなそうな顔して見てる後輩。

 騎士って、みんな、こうなのだろうか。

 だとしたら、この騎士団、終わってる気がするのだけど。


 服は返して貰えない。

 下着姿のまま牢屋に入れられた。

 何がどうなっているのかさっぱり。

 こんなに影の沢山ある場所なら、私は簡単に逃げれるけど、センチャンさんはそうはいかない。

 と言うか、今夜のお屋敷の食事は、誰が作るのだろう。

 私とセンチャンさんが居ないとなると、黒猫のミシャルナだろうか。

 彼女、料理できるんだっけ?

 一度もそんなところ見たことない。

 いざとなれば、何とかすると思うしかない。

 そんな私の心配をよそに、先輩騎士が牢屋の前にやって来た。

 私は、危険を感じて身を固くする。

 と、思ったら、後ろからセンチャンさんが、連れられて来た。

 奥の牢屋に入れられた模様。

 通り過ぎる際に、先輩騎士から熱い視線を注がれて、私は体に悪寒が走った。


「ロフレシア、ちょっと来てくれるかい? 」


 センチャンさんの言葉に私は影に身を沈めた。

 そのまま影伝いにセンチャンさんの牢屋の前まで移動する。

 恥ずかしいので、影から顔だけ出す。


「これ。壊して出してくれる? ちょっと騒いでくれるかな? 隊長が来るまででいいんだけど…… 」


「はい…… 」


 影から出ると、センチャンさんは少し驚いた顔をした。

 "こりゃ重症だな" と呟いていたが、きっと騎士団のことに違いない。

 女と見れば人形と言えども脱がせて下着姿にさせるとか、下衆のやる事でしかない。

 私は魔法の槍を撃ち込んで牢屋の鍵を壊した。

 センチャンさんが牢屋から出ると、両手を剣にして、ガン、ガンと、鉄格子に打ち付けて大きな音を立てる。


「なんだ、なんだ、なんだ〜! 」


 騎士達が駆けつける。

 しかしヒュンヒュンと剣を振る私には近寄れない。

 応援を呼んで来たらしく、今度は槍で突いてきた。

 どれも剣でいなせるが、魔法の盾を出して、圧をかけるように、2~3歩前進する。

 簡単に押される騎士たち。

 更に応援を呼びに行く者を確認した。

 いずれ隊長が来るかもしれない。

 狭い通路では横に3人並ぶのは無理だ。

 私の剣を避けるスペースを考えたら2人がいいところ。

 その背後から槍で突くにしても、精々2本か3本と言ったところ。

 下着姿も気にせず私は剣を振る。

 足を狙う槍は踏みつけて折ってやった。

 キン! キン! と金属音を響かせ、騎士の剣を抑える。

 

「なーにを暴れている! 」


「おー、レヴォーレ! やっと来たか? 」


「ん? 誰だ? 」


 背の高い筋骨隆々な男が進み出てきた。

 

「おっ! センチャンか? こんな所でどーした? 」


 隊長レヴォーレとセンチャンさんは本当に知り合いだった。


「一体何がどうなってる? 説明できる者、前に出ろ! 」


 さすが隊長の発するオーラは違う。

 ビクリと背筋を伸ばし硬直する騎士たち。

 私は服を返して貰えないと訴え、奥に行って着てきた。

 その間に隊長レヴォーレとの旧友を温めるセンチャン。

 そして、衝撃的な言葉を告げる隊長。


「大賢者アルプロウス様の遣いを、このような冷遇した者に、厳しく処罰せねばならん! 」


「ほ、本物!? 」


「人形使いの魔導師ではなく? 」


 あらぬ疑いを掛けられていたらしい。

 人形を使い、犯罪行為を致す魔道士が世間を騒がせているらしく、 私とセンチャンはその濡れ衣を着せられかけていたらしい。

 迷惑な人形もいたものだ。

 が、それはそれ、これはこれ。

 それが大賢者様の遣いに失礼を働く理由にはならない。

 そもそも、こちらは盗人の被害者だ。

 拘束される理由すら見当たらない。

 服を取り上げられ、恥辱を受ける理由があるなら、ここに示して貰いたいくらい。

 と、言いたい処ですが、私は何も言いません。

 センチャンさんが全部言ってくれたから。


「いくら人形と言えども、下着姿にさせて、尋問する決まりでもあるんですか、 ここは? 」


「いや、そんな破廉恥極まりない下衆以下が騎士である筈がない 」


「現にそうだった訳ですから、これはどうしてくれるんですか、 隊長? 」


「関わった馬鹿共は、己の愚かさを身を以て教えてやるしかないだろう…… 」


 先輩と後輩の2人の騎士が呼ばれた。

 二人共下着姿で。

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