第5話 盗人と騎士
「盗品は早く金に換えてしまえば、安心だからね…… 」
盗品を所持している間が一番危険だと本人も思っているはず。
金に変えてしまえば、どうにでも言い訳は出来る。
それでも血吸の金貨と知らずに、ずっと持っているだろうと、センチャンは言う。
表通りから1本奥の通りに足を運ぶ。
怪しい屋台や店がポツリポツリと点在するが、男の姿は見当たらない。
ひょっとして、素人同然の出来心で手を出してしまったとしたら、真っ当な店に持ち込むかもしれない。
その場合、出何処が不確かなら、買い取りは成立しない場合が多い。
結局、裏通りの店で買い叩かれるのがオチだ。
「なにしやがる! 」
「きゃあーー! 」
少し先の店から悲鳴が上がる。
駆け出すセンチャン。
店の入り口から覗くと、あの男がいた。
椅子から転げ落ち、床に転がっている。
一方、カウンターでは、店主らしき男が、手を胸に抱え苦しんでいる。
カウンターの上には目指す短剣と、金貨が数枚置かれている。
「おやおや、奇遇ですね…… 」
センチャンさんは、嫌らしいほど落ち着いていた。
"ロフレシア、出なさい" と指示する声も。
影の中から私は顔を出す。
「さて、御店主、この男が何か売りに来たのですかな? 」
「た、た、助けてくれ! 手が!手が! 」
左手で右手を抑える店主。
突き出した右手の平には、金貨がのっている。
何故か金貨は血まみれだ。
「これは、まずい。 今朝方、屋敷に盗人が出ましてねぇ、血吸の金貨と血塗れの短剣を盗まれてしまいましたよ…… お恥ずかしい話ですが、御店主様の、手のひらにのっているいるのは、血吸の金貨のような…… これは、体の血を全て吸い尽くすまで止まらぬ、暗殺者が使う魔道具にございまして…… 」
「ひいぃぃ! た、助けてくれ! 」
「お助けするのは、やぶさかではございませんが、少々、痛みが伴いますゆえ、 後々恨みを買うやも知れません…… その辺りはご了承頂けますかな? 」
「し、死ぬんだろ? 痛くても死ぬよりマシだ、 早くやってくれ! 早く!助けてくれ! 」
「ロフレシア、手を切り落として差し上げなさい 」
「はい…… 」
もし、被害者が出るとしたら、金貨は人の肌に張り付いて取れないと、予め聞いていた。
助けるにはその部位を切り落とすしかないとも。
右手を剣に変え、店主の手首より少し先を切る。
左手まで切らないよう、そこは狙いを定めた。
「ぎゃあああはぁぁ!!! 」
痛みで悲鳴を上げる店主。
ポトリと右手がカウンターに落ちた。
金貨は手の平に張り付いて落ちない。
「早く、止血を、 ポーションか、治癒魔法をお受けに…… 」
「何だ! どうした! 全員、動くな! 」
センチャンの言葉を遮るように男が店に踏み込んで来る。
振り返ると、男は武装しており、どうやら騎士らしい。
「イタイ、イタイ、イタイ、イタイ…… 」
呪詛のごとく痛みを訴える店主。
傷口にあてがったタオルはたちまち滲んで、血の色に染まる。
結構な出血だ。
「お前が、店主か? 手を切られたのか? 切ったのは誰だ? 」
店主は私の方へ視線を向ける。
「私です 」
同時に私は、手を挙げた。
既に右手は通常に戻してある。
「お前、人か? 怪しい奴、 暴れるなよ! おい! 動くなと言っただろ! 」
逃げ出そうとした男が騎士に取り押さえられる。
一番、捕まりたくない者と言えば、その男に違いない。
「お前、何で、手を切り落とした? 」
「説明なら私が…… 」
センチャンが進み出た。
悲鳴が聞こえたから店に入った。
店には、男と店主、その妻の3人がいた。
店主は手を抑えて苦しんでいた。
今朝方、屋敷に盗人が入り、血吸の金額と血塗れの短剣を盗まれた。
ここにある品物は盗品に、違いない。
店主の手には血吸の金額が張り付いており、助けるには、手を切り落とすしかなかった。
センチャンはそう説明した。
「お前、これをが持ち込んだのか? 」
男は首を振る。
「こいつが持ってきた品物でさあ! ああ、イタイ、イタイ、イタイ…… 」
店主がそう言うと、男は、捕まえられた。
証拠の品として、血吸の金貨と血塗れの短剣は押収される。
そして、私達も。
店主は、治療を受けに何処かへ行った模様。
私とセンチャンは騎士団の敷地へと連行された。
逃げられないよう両手を縛られて。
これでは盗人と同じ扱いではないかと心の中で不平をこぼす。
黒服のドワーフとメイド服の人形。
そして、それを騎士が連行する。
これ以上ない、あらゆる噂の種がここに存在した。
おもしろおかしい噂は、その優劣を競うかの如く生まれては消え、流れては、消えていくだろう。
「で、お前が大賢者様の遣いと言い張る証拠はこれだけか? 」
ペタペタと、お手玉のように紋章の刻まれたプレートで遊ぶ取調べ官。
「隊長レヴォーレを呼んで貰えますかね? 」
「ああ、お前が本当の事を言ったら呼んでやるよ 」
まるでお話にならない。
センチャンは、溜め息をついた。
◇◇◇◇◇
「先輩、そんな趣味あったんすか? 」
私は頭に血が登りそうなのを、必死に堪えていた。
騎士の取調べは身体検査からはじまった。
武器を隠し持っていないか探る。
それは、理解できるが、 腰に短剣が見つかると、私は服を脱ぐよう命じられた。
今や下着姿だ。
胸あてとパンツ、ガーターベルトに長い靴下だけの姿となっている。
女の扱いはこんなものなのだろう。
しかし、下着の上から触って "固いぞ" "こりゃ木だな" と素材当てクイズでもしてるかのようなやり取りには。うんざりさせられる。
事件の事に関してはまだ、何も聞かれてない。
これの一体どこが取り調なのだろう。
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