第6話

クールビューティ参戦


 『いいスポーツ同好会』、活動3日目の今日。


 いつもの机に座る俺の目の前には、いつも星屑のような笑顔を振りまく天の川。

 その隣には、その星屑をひとつくらい分けてもらえばいいのに、と思えるほどに無表情なのがいた。


「今日は審判として、えっちーに来てもらいましたー!」


 天の川が両手をヒラヒラさせて紹介したのは、三つ編みに黒縁メガネのいかにも暗そうな女だった。

 そしていかにも真面目そうで、天の川のスカートは膝上丈なのだが、彼女のスカートのふくらはぎまである。

 ブラウスのリボンも寸分の狂いもなくキッチリと結ばれ、その上に学校指定のセーターを着ている。

 それがことさら豊かな曲線を描いていたので、俺は視線を奪われてしまいそうになった。


 なんにしても、こんな女は見たこともない。

 しかし学年を表すリボンの色からして、同じ学年のようだ。


「えっちーはね、越前涼子っていって……」


 俺はその名前にすぐさま反応する。「まさか」と。


「うん、『エンジェルボイス』のメンバーのえっちーだよ! ぜんぜん違うからわからなかったでしょ!?」


 越前涼子。エンジェルボイスの中では『漫画オタク』と『サバゲーオタク』を売りにしているメンバーだ。

 愛称は『えっちー』だが、サバゲーの時には『コンバット越前』というコードネームで呼ばれているらしい。

 ステージの彼女はクールビューティーで、イベントや握手会などでも素っ気ない対応が有名であるが、彼女のファンに言わせると、その媚びないところがいいらしい。


 最初はただの根暗女だと思っていたが、よく見て見ると彼女のメガネの奥の瞳は氷のように冷たく、たしかにあの人気アイドルの越前涼子だと思った。

 ちなみにアイドルの時はメガネをかけておらず、また三つ編みでもなくてストレートのロングへだ。


 彼女は射貫くように俺を見据えたまま、気だるそうに吐息のような声を漏らす。


「目立つのは嫌いだから、学校ではこの格好なの。

 だからこのことは誰にも言わないで。言ったら殺すから」


 のっけから失礼な態度のヤツだな。

 俺は最初が肝心だと思い、ビシッと言ってやった。


「へぇ、お前は風が鳴るのを止められるっていうのか?」


 唇を尖らせてピューピュー口笛を吹いていると、ヤツはいきなり俺に向かって手を伸ばしてきた。

 ジャキン! と鋭い金属音がしたかと思うと、上着の袖から小さな拳銃が飛び出してくる。


 ヤツはその銃の引き金を、ほぼ同時に引いていた。

 シュパンと発射音がして、俺の額に激痛が走る。


「いっ……いってぇぇぇぇっ!? こ、この女、なんの迷いもなく撃ちやがった!?

 しかもガスガンだろ、それっ!?」


 ズキズキする額を押えながら抗議すると、ヤツは謝るどころか眉ひとつ崩さなかった。

 それどころか「もう1発いく?」みたいな態度で、銃を俺に向けたままだった。


「自分は、止められるのかと尋ねられたから止めただけに過ぎない。

 もしこれが本物の銃なら、あなたは息の根も止まっていた」


 こ……怖っ! なにこの女!? アイドルが息の根とか言うなよ!?


 天の川はこの女の奇行には慣れているのか、苦笑を浮かべるばかりであった。

 見かねた様子で「まーまー」と仲裁してくれる。


「えっちーは本当は文芸部なんだけど、今日は特別に『いいスポーツ同好会』に来てくれたんだ。

 とってもいい子だから、仲良くしてあげて、ねっ?」


 銃口を俺に突きつけたまま、瞬きもせずに「よろしく」と越前。


 どのへんがいい子なんだよ!? オッパイがでかいところ!?

 ネコですら友好の証しに瞬きするっていうのに、コイツときたら……!

 せっかく天の川とふたりっきりでいい雰囲気だったのに、とんでもねぇ女が現われやがった……!


 俺はもはや敵意を隠さない。

 越前と睨みあったまま、見えない火花を散らす。


 しかし天の川はその緊張感を感じていないのか、お花畑で遊ぶみたいに脳天気な声をあげた。


「うわぁ、えっちーが男の人とこんなに親しくするだなんて初めてかも!

 これならすぐに仲良しになれそうだね! 親睦を深めるためにも、さっそくゲームをやろっか!」

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