第4話
入部しちゃいました
次の日の放課後、『光速帰宅部』に所属していた俺は、愚民どもが目視できぬ速さで昇降口に向かった。
しかし下駄箱から靴を取り出している最中、後ろからむんずと肩を掴まれる。
振り向くとそこには、険しい上目の天の川がいた。
「善人くん、どこ行くの!?」
「どこって、帰るに決まってるだろ」
「善人くんは『いいスポーツ同好会』の部員なんだから、帰っちゃダメだよ!」
そして俺はなぜかまた第三準備室、すなわち『いいスポーツ同好会』の部室にいた。
陽が傾き始めたなか、アイドルとふたりっきりで、ひとつの机に向かいあう形で座っている。
「俺は同好会に入るだなんて一言も言ってないんだが」
「先生の許可はもらってあるよ。善人くんはいろいろ問題のある生徒だから、部活をするのはいいことだろう、でも気をつけなさい、って言われたよ」
「少しはオブラートに包めよ。それに天の川はもう、昨日俺に勝ったんだからいいじゃないか」
「よくない! まだ1回勝っただけなんだから! わたしは、勝ち越しするまでやるつもりだよ!」
「最低でもあと9840回もやるつもりかよ」
そこに俺は、自由になる突破口を見いだした。
「天の川は俺に勝てばスッキリするかもしれないけど、俺にはなんのメリットもないよな?
もうすでに1万弱、それこそアルプスかってくらいに勝ってる相手に、いまさら勝っても嬉しくもなんもないし」
すると天の川は「くっ……!」と眉を吊り上げる。
「北風を縛り付けておくことなんて無理なのさ」と俺は椅子から立ち上がる。
「わかった。そういうことなら、こういうのはどう?
先に5勝したほうの言うことをひとつ、なんでも聞くっていうのは?」
「マジすか」と俺は光の速さで着席する。
実をいうと昨日から、俺の頭の中は天の川のキス顔でいっぱいだった。
「ホントに、なんでも言うことを聞いてくれるんだな?」
「わたしに5回勝ったらね。いまはわたしのほうが1勝分リードしてるけど」
「昨日のお前の1勝分は考慮されて、俺が長年積み重ねてきた9840勝分は考慮されないのか」
「いいでしょう、そのくらい? 善人くん、ゲーム強いんだから」
「まあいいだろう。そのくらいはサービスしてやるよ」
「じゃあ、交渉成立ね! 善人くんは『いいスポーツ同好会』の部員で、これから毎日わたしとゲームで勝負するってことで!」
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