78.国選魔道具技師(仮)になるようです
結局、会議室から退出ができた時には日が暮れかけていた。どんだけ大量の群れなのか、未だに安全の確保には至っていないらしい。暴走の勢いが鈍化していて時間がかかっているそうだ。
待機していなければならない暇な時間に、お誘いいただいた通り、王城の行政区画を見学させてもらえた。国家公務員の皆さんがバタバタと走り回っているのを他人事のように眺めて回る。俺は俺の役目を果たしたのだし、皆さんも皆さんの役目を果たしてくれれば良いんじゃないかと思います。
最後に騎士団の練兵場なんかも見学させてもらえたが、ちょうど有事真っ只中で全員出払っているので、だだっ広い空間が広がっているだけだった。ここは訓練している騎士がいる平時に見学に来たい場所だな。
その見学会にはなんと陛下が同行されていた。官吏たちは現在大忙しであっても、最高責任者としての方針決定は終わっているのだから、居場所だけはっきりしていれば大丈夫、とか。意見を述べるだけの前提知識がない学生の身では、そうですか、と追従するしかない。
で、せっかく同行したので、聞いてみた。
「俺、じゃなかった、私をこの世界にさらった誘拐犯を拘束いただきましたけど、実害といえば異世界の人間をさらっただけですし、どうされるんでしょう?」
「気になるか? そうであるな、被害者本人となれば気にもなろう。確かに未だ実害もなく、アレの思惑にも悪気がない。いや、悪気がないことがそもそも問題であろうな。放っておけば起こるやもしれぬ、では厳しい処分も不当となろう。ゆえ、問題を起こし難くする沙汰が必要となる」
「監視を付ける、とかですか?」
「うむ。それと、肩書きの一部剥奪であるな。少なくとも学院教授は罷免となろう。魔法省での職位降格もあるが、元々我が国唯一の魔法師としての職位であるゆえ、唯一でなくなれば降格は順当。処分には当たらぬな」
だ、そうだ。
大学院教授でなくなれば俺との接点もなくなるし、その後のおっさんがどんな人生を辿ろうとどうでも良いので、後は陛下のお心にお任せすることにした。
で、俺の質問に一段落したら、陛下からも問い合わせが来た。今までで一番のおめめキラキラ具合だった。
「ずっと気になっておったのだ。翻訳道具があるから自分で学べ、だったか。翻訳道具とは、魔道具か? そのようなものがいずこかより発掘されたのか?」
スゴいな。たった一言口走ったのを漏らさず聞き咎めていたようだ。しかしそれにしても、興奮しすぎでは。
「いえ。必要な記述が分かったので、お、じゃなくて、私が作りました。特許管理局に登録済みです」
「なに? 作った、とな?」
何故そこで驚きますかね。今王都を守ってる結界も俺がカスタマイズして作った魔法陣なのに。
移動中に驚いて立ち止まったものだから、控え室に戻る途中だった見学会の隊列が一時停止した。
「古代の遺跡から古代語の翻訳道具は出ないでしょう。彼ら自身が古代語を使っているのだから必要がありません」
「む。確かにその通りだ。であれば、翻訳なる技などどこから得たと申すか」
「異世界人がこの世界の言葉を話せる理由をお考えください」
「……転移魔法に組まれておったか」
「師に感謝です」
「まことに」
そこは同意なんですね。しみじみと頷いた陛下は、それからまたゆっくり歩き出した。
控え室はすぐそこのようで、仕事に戻っていたはずの宰相様が待ち構えている。陛下を迎えにきたかな。
「宰相よ。翻訳道具はこの者が新たに作り出したようだぞ」
「おや、申し上げませんでしたでしょうか。これは失礼を。リツ殿は今夏屋外作業従事者に大人気の空調マントなる魔道具の生みの親でございますよ」
ふふ、と宰相様が楽しそうに笑っている。そうだったのか、と陛下はさらに驚いた顔をこちらに向けた。
いや、今夏大人気って。俺は知りませんけどね。王都を離れていたせいだが。
「優秀な魔道具技師であるのだな。ふむ。技師となると、抱え込める部署がないのう。惜しいことよ」
「国選技師と任じられますか?」
「それが良いか」
なんだか勝手に国に囲い込まれそうなんですが。自由が無くなるのは嫌なので、断れませんかね。そもそもまだ見習いなんだよ、俺。
「あの……。まだ、学生ですし、技師の資格もないので……」
「では、資格を得るまでは仮称ということで」
反応早っ。逃げ損ねた。こういう時どうやって逃げたら良いのか、ガキの俺にはさっぱりわからんよ。
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