77.暴走の原因究明を依頼されました

 過去を振り返った後は未来の話だ。

 何しろ、現在魔物の暴走をやり過ごし真っ只中であって、何の解決もできていない。暴走して通過した魔物のその後をどうするのか、そもそも暴走の原因は何なのか。問題は未だ山積みだ。


 進行役は宰相様に変わり、まずは王都の今後取るべき体制が話し合われた。俺たちはただ聞いているだけなんだが、今王都を守っている魔法陣の出所であるだけに、現在王都に入れず門前に避難している人々の受け入れだったり、管理森林側の魔物討伐についてだったりと、結界外周で行うあれこれの可否相談のため度々声をかけられた。

 残念ながら、そこまで細かい挙動については答えられるほど詳しくないんだけどな。何しろ、魔法陣が出来上がったのは発動の直前だ。


 結界の解除までは王城に留まることは決定で、俺たちはしばらく手持ち無沙汰のまま暇つぶしすることになった。

 せっかくなので会議後は王城内を見学していくか、と同じく傍観者になった陛下から提案をいただいたり。ありがたいけど、良いのかな。宰相様もそれが良いとか頷いてるし、良いのかな。


 さて、最大の問題は魔物の暴走をやり過ごした後だ。そもそも、原因が分かっていない。


「おそらくは、山脈の奥地にて生態系に変化があったのだろうとは思われますが、何しろ毒大亀蛇の群れを暴走するほどに逃げまどわせるような魔物。観測しようにもそのような強敵の調査などなかなか難しく」


 今回スタンピードを起こした魔物は、毒大亀蛇というらしい。亀蛇って、玄武かな。

 それが、Cランクでも複数パーティーで1匹相手の換算だ。Bランクなら1パーティーで対処可能なのだろうが、それを追い払うような魔物をBランク1パーティーで相手取れるとは楽観視しすぎだろう。さらにそれを追い払ったもっと上がいたとすれば、Aランクでも怪しいんじゃないか。


「なぁ、リツ。空からなら確認できるか?」


 テーブル沿いに椅子が並べられず後ろにいたエイダがこっそりと提案してきて、俺とエリアスは揃って振り返った。


「ドラさんに頼んでみたらどうかな」


「そりゃ、ドラさんならどんな魔物がいても敵じゃないだろうけど。人間の国のことだぞ。頼まれてくれるか?」


 そのエイダの提案にエリアスは否定的な反応だ。まぁ、ドラさんは俺に好意的ではあるし、頼めば協力してくれるだろうけど。


「いや、空に運んでもらうだけでさ、調査はリツがやる感じで」


「ん? 俺?」


「そう。だって、俺らは一緒に乗せてもらっても調査の役に立てねぇもん」


「確かに。景色見る余裕もないのに調査とか無理だ」


 そうだね。先日乗せてもらった時は地上に降りるまで全員無言で震えてたみたいだからね。

 こっちでコソコソ相談しているのに、聞こえなかったのかニコル会長は振り返って首を傾げていて、騎士部隊長さんがわざとらしく咳払いした。


「何ぞ意見があるなら発言を許すが?」


「あ、いえ。えーと……」


 どうするよ、と目で訴えられても、俺の独断じゃ決められないけど。

 それに、俺じゃ魔物知識が足りなくては満足な調査結果は見込めないぞ。


「手詰まりである現状ではどのような意見も必要である。発言を躊躇する必要はないぞ」


 それを騎士部隊長殿が言っても、と思ったそばから、宰相様まで口添えがあったし。


「ドラさんというのは、先ほど聞いた師匠殿の塔におられるというドラゴンのことかな?」


 チラチラ聞こえてたんですね、ニコル会長。ドラゴン、との情報に室内がざわめく。


「聞いてみないとなんとも答えられないですよ?」


「リツくんとしては、協力してくれる気はあるのかい?」


「そうですね、自分の住処が脅かされてると思えば、協力するのにやぶさかではないです」


「ドラゴン、というのは?」


 控え室で話をした続きでニコル会長に答えていたら、宰相様に問いただされた。そこで改めて、ようやく俺の正体を簡単に告げる。先ほど拘束されたおっさんが使った魔法陣が、ピンポイントに俺の師匠が作った俺個人を呼び出すものだったこと、遺してくれた遺産のこと。そして、自称リョー兄ちゃんの使い魔というドラゴンのこと。


「この山の向こう側では、今日明日で行ける距離ではあるまい?」


「いえ、一瞬です。転移魔法がありますので」


「な! 古代の英智ではないか!」


「そうですね。師匠が古代の人ですからね。時を越えて召喚されていなければ俺も古代の異世界人です」


 魔法省の職員らしいローブの人が喚く。だから、ついさっきそう言ったじゃないですか。


「その転移魔法は勿論公開……」


「今の国家政府では公開できないですね。翻訳道具はありますから、過去の文献から復元なさったらいかがですか?」


 この国であのおっさんの我が儘を助長させて俺をここに呼び出した魔法関係のお偉いさんに、協力する義理はないんだよ、俺には。

 陛下なんか、拠点が国外に既にあるなら簡単に逃げられてしまいそうだな、なんて他人事チックに笑ってるし。


「それで、頼めるだろうか?」


「言うだけ言ってみます。ドラゴンの気分次第と思ってください」


「承知した。だが、期待している」


「最善は尽くします」


 言えるのはそこまでです。

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