67.それは脅しと言う気がします

 翌日、前払いしていた宿代がキャンセル日数分の8割戻ってきて、俺たちは拠点を移動することになった。冒険者相手の宿屋をしていると、長期宿泊が基本で予定を繰り上げて引き払うこともよくあることなので、また利用してね、とニコニコ送り出してくれた。

 まぁ、この国で俺が宿屋を利用することはもうないだろうけど。


 レイン教授が発掘調査していた遺跡は、リョー兄ちゃんの研究所を探していた人が所有していた施設だったため、当然サントラ村跡地にほど近い場所に存在していた。なので、街から向かうよりも塔から向かった方が近い、街から塔へ向かう方角の途中にあった。

 そのため、塔に送ってもらう途中で遺跡の確保に付き合って欲しい、とのレイン教授の依頼で、勿論快諾である。ここまで連れてきてくれた恩人なのだから、最大限協力しますとも。


 車に乗せられて着いたその遺跡は、まさに遺跡だった。2階建ての石造りの民家だったようで、屋根は全て落ち、2階部分は壁中央部分が崩れ落ちて半壊、2階の床も半分崩れていて、1階はドアや窓がなくなって穴だけの状態になっていた。

 まさに廃墟。後からやってきて横取りした形の調査チームも、これでは面白味もないのか、やる気が無さそうに見える。


 発掘現場に車が入ってきたことに気づいて手を止めていた作業者たちは、どう見ても学生な俺たちを引き連れたレイン教授が車から降りたのを警戒したようで、それぞれ立ち上がった。

 奥から責任者らしい男が出てきた。現場監督なのか、作業着は着ているものの他のメンバーと違って小綺麗だ。


 出てきたんだが、何やら様子がおかしかった。出てくるまでは横柄な態度だったのに、こちらを見た途端に駆け寄って来たんだけど。


「レイン先生じゃないですか!」


 おや。お知り合い?


「あぁ、レインだが。そちらは?」


 ではなく、レイン教授が有名人だっただけのようだ。

 一方的に知っている自覚はあったようで、男は恭しく腰を折って自己紹介を始めた。この国で国家管理の遺跡調査を請け負っている考古学者だそうだ。つまり、今回も国の発注を受けての調査と思われるが。


「発見者優先の原則は当然ご存知かと思うが、調査作業中の立て札は見なかったかな? このとおり、ギルド認定発掘優先権の期限内であるのだが」


「なんと!? あぁ、確かに。発注元担当者からは未調査の新発見遺跡と聞いておりましたが、これは謀られましたかな。いやはや、確認不足で申し訳ない」


「では改めて確認いただきたい。街でお尋ねいただければ証言も多数あると思いますが、我々は学院のゼミ生を伴っての発掘実習を兼ねておりましてね。学生の学業の妨げとなれば学会としても心象の良くないことにもなりましょう」


「そうでしたか! これは、確認不足も甚だしく、汗顔の至りですな。大変失礼した。今日中に撤収しましょう」


 おや。スムーズに話がまとまったようだ。


 この考古学者が嘘を吐いているのでなければ、問題は調査を依頼した国の担当者であって、この人は巻き込まれただけということになるが、さて実態はどうなのかな。

 宿屋の従業員が解雇されたなんて話題が街で噂になってないとも思えないし、最近うろついていた見慣れない学生たちを見なくなったなんてのも話題になりそうだし、知らなかったとの言い訳を信じて良いものかどうか。

 他者に興味を持たない国民性が出て、全然話題になっていないなんてこともありえるしな。実際のところ、俺も街中の噂話は耳にしてないわけだし。


 原状回復をお願いしますね、と念を押したレイン教授が踵を返して車のあるこちらへ歩き出すと、考古学者氏も忙しなく遺跡の中へ戻っていった。作業中止する様子は無さそうだ。

 聞き耳を立てていると、こんな廃墟にとか、本当にあるのかとか、話し合っている声がちらほら聞こえるので、大量の文献が見つかった地下室を探しているのだろう。レイン教授にも聞こえているだろうに余裕綽々だけど。


「良いんですか?」


「今日中に見つけられなきゃ約束通り撤退するだろうさ。学会から干されたくはないだろうしな」


 最初の声掛けで十分だった気がするのに、なんでここでゼミ生の実習がどうのという話をわざわざするのかと思っていたけれど。

 それって、脅しって言いませんかね。


「なんだか、尻に火がついて何としてでも探し出そう的な雰囲気ですが?」


 エリアスも気になったみたいでツッコミを入れていたけど。レイン教授はよほど見つからない自信があるのか、カラリと笑うだけだった。


「古代語も読めずにあのカラクリが解けるなら誉めてやるよ。読めたとしても、俺もリツから聞いてなきゃ解けなかったくらいだ。まぁ、邪魔はするなと忠告してあるし、大丈夫だろ」


 俺、何か教えたっけ?

 友人たち全員に注目されて、首を傾げる俺でした。

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