58.身内第一な反政府組織です
荷物を部屋に入れたら、すぐに外出することになった。行き先は、冒険者ギルドだ。
ちなみに部屋割りは、男女に分かれて取っている。全員が命を預け合うパーティーメンバーなら男女同室も珍しくないそうだが、今回はレイン教授という他者がいるためこうなった。
「冒険者ギルドが超古代文明から続く組織で入植者に抵抗仕切った話はしたと思うが」
出かける前、俺たちは大部屋で荷物を片付けつつレイン教授の余裕の理由を聞くことになった。
その話は俺しか聞いていないのだが、どうやらこの世界で冒険者をやっていれば常識の範疇のようで、みんなも普通に頷いている。
なんでも、入植者に長年に渡って抵抗して世代をいくつも跨いだことで、冒険者ギルドという存在は反政府勢力としての地位を公に認められた組織であるらしい。ただでさえ魔物相手に暴力を行使する肉体派集団だ。彼らを敵に回すと厄介だとの認識で、この大陸全土で国の単位をこえた一大勢力として認められているらしい。政府と違って一般市民への影響力はないが、ギルド員に限ってその権利を国と同等のレベルで保証する力を持っている。
つまり、政府に申告せずともギルドに申告してあればギルド員の権利はほぼ保証されるということだ。
「遺跡なんてのは特に、国に申告してしまうと発見者であっても接収されてしまって自由に研究ができなくなる。だから、考古学者はギルド証を持っているのが普通だな。冒険者ギルドは遺跡の管理なんてしていないから、第一発見者の権利を守ることしかしない。それだけしてくれれば良い俺たちと利害が一致するんだ」
学会に発表してしまえば、大衆に既知の遺跡として国の管理下に入るが、それまでは第一発見者が自由に研究できる。そのかわり、たまたま盗掘者が居合わせたりしても遺跡の保護は研究者自らの責任になるし、別の研究者とバッティングしても誰の助けも借りることができない。
まぁ、みんな事情は同じなので、他者が発掘中の遺跡に後からやってきて乗っ取るような研究者はいないし、もしいたとしたら横取りした側が学会から干される結果になるのは目に見えている。発表したもの勝ち、などという考えは、文化を蹂躙された歴史を持つここには存在しない。
この話の流れで分かる通り、レイン教授ももちろん冒険者らしくギルドへの第一発見者申告はしてあったそうだ。
「それにな。貴重な文化遺産は全て元通り地下室に仕舞ってある。あそこは、文字が読めなきゃ開けられないからな。さすがにまだ翻訳魔道具も普及はしていないだろ」
「仮に翻訳魔道具持ってたらどうです?」
「特許登録者だから、リツから特許情報の持ち出し履歴は見られるぞ。確認してみるか?」
その確認は、俺も持っている携帯端末から可能だそうだ。一般に普及しない程度には高価な貴重品のくせに、便利だな、この携帯。
なお、まだ閲覧数しか増えておらず、詳細の持ち出し数はゼロだった。今現在、翻訳魔道具が作れるのは俺が直接魔法陣を教えた師匠だけのようだ。
「上っ面の発掘だけなら、大して特筆するような遺物もないからな。ギルド発行の証明書持って押しかければ調査団もすぐ引き上げるだろ。心配はいらない。それよりも、リツのお師匠さんの遺産の確保が優先だ」
お師匠さんというのは、どうやらリョー兄ちゃんのことらしい。俺に魔法陣を教えた魔法師の師匠だと。確かにそうだけど、俺には師匠という意識がないから違和感は大きい。
その遺産の確保の件だが。先日レイン教授と共にギルドに行った時に調べてもらったリョー兄ちゃんの形見のギルド証から、ギルドの慣例に基づいてそのギルド証の継承者は遺産の受取人であるという認定がされ、俺自身の情報として『Sランク冒険者リョーテエイデルアンデリアの遺産継承者』という特記事項が付与されているそうだ。その紙媒体での証明書を手元に持っておくことで、遺産の接収トラブルを避ける方針らしい。
古代の遺跡であっても、相続人がいるなら個人資産なので国で接収することもできない、という理屈だ。
「証明書自体はどこでも出力できるからな。まぁ、正直なところ、紙は要らないと思ってたんだ、さっきまでは」
今回の遺跡発掘の横取り案件から、必要性を感じたそうで。そもそも、見つかるかどうかも分からないんだけどね。
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