56.それってユー○ォーキャッ○ャーですよね
途中の街でちゃんと宿に泊まって、目的の国の国境に到着したのは4日目の夕方のことだった。
国境の街で1泊して、国境になっている崖を渡るロープウエーに乗る。車は貨物専用ロープウエーに預けるそうだ。今日は明日乗せる貨物ロープウエーの利用予約を取るところまでになる。
で、そのロープウエーなんだが。
「何、あれ」
手摺りに沿って俺たち5人横並びで、ポカンと口を開けて見ていた。
レイン教授のマイカーと似たワゴン車が巨大なアームに挟まれて宙吊りにされて運ばれていく。大きな荷台を付けたトラックも、丸まま容赦なく宙吊りだ。
というか、そのアームはもしや、日本のゲームセンターに溢れてる、アレだよな。ユーフォー○ャッチャー。
遊具と違ってしっかり固定されているのだろうが、その形は俺に違和感しかもたらさない。ポップな配色のせいだろうか。作業重機なんだから無骨に素材色単色でも良かっただろうに。
「すげー。ロープ1本でこの距離移動するのか」
えーと。この乗り物初見なのか。そうか、驚きポイントが俺と全然違った。
知らないと素直に感動できて良いなぁ。俺にはオモチャ感が抜けなくて共感できないけど。
日本のロープウエーは予めロープ上に人が乗り込む籠が固定されていて空荷でもロープと一緒にクルクル回っているものだが、こちらのロープウエーはロープに鉤爪が付いていて荷を積んだ籠を引っ掛ける後吊り方式だった。
その方式で何故床を放棄したのか。謎すぎる。下敷きに貨物を固定して下敷きを吊り下げた方が安全じゃないだろうか。
「この世界、時々謎なことするよな」
ボヤいたら左右から注目されてしまった。なんでもないです。
予約手続きを済ませて迎えに来たレイン教授に連れられて向かうのは今日の宿だ。レイン教授が頻繁に使っている馴染みの宿だとか。
「さて、目的地に入る前にこの国の歴史的背景を説明しておこうか」
「今まで通過してきた国は良かったんですか?」
「あぁ。この国だけ特殊でな。日常生活に影響がある」
誰が作った国なのか、どうしてここにあるのか、については休暇前に教わっていた。他国の歴史なんて学院の授業では触り程度だし、図書館の蔵書にも他国の国史なんて所蔵はないので、レイン教授の教えが全てだ。
ここで、もう少し詳しく説明してくれるらしい。
食後の食堂に席を借りて、お茶をいただきながら歴史の授業を聞くことになった。
ロープウエーを渡って入る予定の隣の国、すでに『この』という指示語で指し示しているが、ここは大昔、大陸南西部一帯を支配していた大国の中にぽっかりあった僻地だった。
標高の高い山々が連なる山脈の北にあって、深い崖によって地表が落ち込んだ地形のため、冬には日の光がほとんど入らなくなるような暗い土地になるという。
夏の間はほぼ頂点から太陽が覗くため、落葉樹を中心に植栽は豊かであるらしい。
生き物の出入りを阻むような地形のため、自然とこの土地は隠れ里となっていた。
住んでいたのはちらほら大陸の各地から集まってきた訳ありばかり。自らが出自を知られたくないため自分からも相手の出自を問わない風土が自然と根付いていた。来る者は拒まない、厄介事は見て見ぬ振り、助けを求められるならできる範囲で助け合う。去る者も追わない。ただし、強制強要は御法度だ。
そんな土地柄は今でも脈々と受け継がれている。
そして、時代は超古代文明終末期。異大陸からやってきて、始めから話し合いなどする気もなく、武力を殊更誇示して服従を迫る野蛮な民族が徒党を組んでやってきた。船1隻程度の海賊ならばなんとでもなったのだろうが、欲しい物があれば奪い逆らう者がいれば殺すことを正とする蛮族の1部族がまとめてやってきたわけだ。揉め事は話し合いで解決する文化の成熟した当時の大陸人たちは、抵抗する間もなく蹂躙されていった。
この僻地に逃れてきたのは、西から攻めあがってきた蛮民族から国を守ろうとした国の支配者層の、女性や子どもなどの家族たちだった。戦地となった首都を離れ、魔物が徘徊する森を避け、人が隠れ住める土地としてこの土地が選ばれた。
が、当然こんな僻地でも人が住んでいるのならば蛮族たちの追っ手がかからないはずがなく。逃げ出した支配者層の家族を追ってきた蛮族にこの僻地も見つかってしまい、他の土地と同じように文明文化を搾取される運命からは逃れられなかった。
蛮族たちが元あった文明を破壊してこの大陸を統一国家として支配するようになって数世代を経て。
統一国家が瓦解することで空白の土地になったこの僻地は、代表者をかって出る支配欲旺盛な部落がなかったこともあり、なんとか生き残った蛮族たちに追われた支配者層家族の末裔が国家代表に立つ、国による支配のない国が誕生した。
一応は国の体裁として代表者にはなるが、それぞれの隠れ里ごとに自立した自治体集合国家であり、自治体単位で国家運営費が持ち寄られて成り立っている。そのため、民国、という国家形態である。
「そういう歴史的背景があるからな。外国人には国民に関心を示さないことが最重要事項として求められる。反対に、こちらの尊厳も犯されないから安心して良い」
聞けば聞くほど、排他主義というか、変な国だった。
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