53.期末テストはやっぱり苦手です

 異世界に来ても学生生活を続けている俺だが、言うまでもなく、勉強は嫌いだ。脳筋な自覚はある。で、俺の周りはエリートばかりなので、学力差は比べるのもむなしくなるほどだ。

 そこで、テスト前になったらみんながテスト対策を手伝ってくれることになった。

 なんで自分で魔法陣が書けるくらい賢いくせに授業内容はダメなのか、なんて突っ込まれたが。そんなの俺自身が聞きたいよ。


「分かった。リツはあれだ。丸暗記が苦手だろ」


 テストに出るぞ、をピックアップして俺に覚えさせていたエイダが、両手を上げてお手上げジェスチャーしながらそう分析した。まったくその通りだ。


「でも、暗記しないとテストの点は取れないからな。頑張れ」


「厳し……」


「弱音吐かない。はい、続きやろ。さっき覚えたところを復習ね」


 こういう時、優しい口調で一番厳しいのはヘリーだった。容赦ない。


「でもさぁ。リツは良い成績取る必要あるのか?」


 物理学の教科書から要点をピックアップしてくれていたドイトが、手を休めてそう言う。確かに、と何故かみんな揃って頷くし。


「みんなのそばにいるのに俺だけバカだと恥ずかしいかな、とは思う」


「えー。リツくん頭良いじゃない」


「物覚え悪いけどな」


「得意分野がテストと相性悪いんだね」


 お、良いこと言われた。まぁ、根本的に解決にならないんだけどな。


「学力なんか冒険者にはあんまり必要ないけどな。入学理由が違うんだし、最下位でも気にしねぇぞ」


「気にするのは他人だけだな。放っておけば良い。でも、頑張ってくれる気持ちは尊重するぞ」


 じゃあ、続きはこっちな、と容赦なく新しい課題を差し出されるわけだが。


「リツの得意科目は戦闘実習かね?」


「かもなぁ。一番ダメなのは魔術の座学な」


「え! なんで!?」


「俺の知識と現代魔術学の違いがネックでな」


「あ゛ー」


 『あ』に濁点付けるとか、器用だな、エリアス。


 こんな日々をテスト終了まで過ごして、無事テスト期間が終了した。

 俺の成績は聞くな。下から数えた方が早い。最下位じゃないだけ偉いよ。エリート学校だぞ、ここ。


 問題は、俺のパーティーメンバーたちの成績だ。

 学力で選考される国内最高峰の学院だけに、テスト終了の翌日にはそれぞれの学年掲示板に全員の成績順位が貼り出されるのだが。

 1位エリアス、2位ヘリー、5位エイダ、11位ドイト。

 こいつら、本当にもう。頭の中どうなってるんだ。かっ捌いて見て良いだろうか。


 食堂に向かうついでにと一緒に見に来ていたヘリーは、嬉しそうに胸元で小さく手を叩いた。2位は嬉しい成績だったようだ。なお、エリアスたちは前の授業で荷物運びを教師に指示されたため遅れている。クラス委員は大変だ。


「エリアスには負けてるけど良いのか?」


「大丈夫、あれには勝てないから。満点どころか加点とか、どうやるとそうなるの。それより、オーリに勝てたのが嬉しいんだ」


「あー、3位の人な。因縁の相手?」


「ボクに難癖付けてきた子だよ」


「うん、因縁の相手だった。良かったな」


 くしゃくしゃとショートカットの頭を撫でてやったら、やめてーと言いながら楽しそうに笑った。


 そうしてふざけあっていたら、横合いから声がかかった。


「あら、身の程知らずが今回はうまくやったようね。最下位クラスに行ってしまったから、てっきり最下位争いに加わるのかと思っていたわ」


 そっちに目線をやったら、縦ロールのゴージャスな女子が腕組みして立っていた。たわわに実った胸部装甲が組んだ腕に乗っている。あれはワザと男の目線を集めるためにやってるんだろうか。

 この学院、貴族女子は武闘派って言ってたよな。てことは、これで平民かもしくは武闘派……。後者はないな。華奢すぎる。


「まぁ。底辺まで落ちた上にその貧弱な身体で男まで捕まえたの? 呆れたこと」


 ふふん、と鼻で笑うのだが、それは下品だから女の子はやめた方が良いと思うな。

 で、このいちいちトゲのある言いがかりの主は、噂をすればなんとやらということだろうか。


「誰?」


「3位さん」


 当たりでした。ヘリーがイジメを受けたためクラスを移動するべくテストで細工をしたと聞いていたのだが。これはイジメに分類されるんだろうか。ちょっと疑わしい。

 ただ確かに鬱陶しくはあるかな。物理的被害が無かったために鬱陶しさから逃げ出した、というのが真相かもしれないな。俺でもこの人物からは距離を置きたいと思う。


 相手をせずに離れるのが正しい対処かもな。エリアスたちとはここで待ち合わせだったんだが、この後の目的地に先に移動してしまおう。ここにいなければ先に行ったとエリアスたちも勝手に判断するだろう。


「行こ」


 女の子らしく華奢なヘリーの手を引いて俺は移動を促し、ヘリーも黙ってついてくる。

 無視された形の女子学生は、またもふんと鼻を鳴らした。だから、それは下品だって。口に出して注意してないから改善されないのも当たり前だけどな。

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