52.スライムって厄介ですね
学院裏の管理森林が立ち入り禁止のままなので、俺たちは蒼滝の森に魔物狩りに行くようになった。沼だの池だのと水場が多い森なので、冒険者に不人気なんだそうだ。人の目が鬱陶しく感じる俺たちにはうってつけだ。
成人してその他大勢の中に入ってしまえば注目も治まるだろ、と希望的観測をエイダあたりは口にするんだが、まぁ無理だろうな。成人したばかりのBランクパーティーなんて注目の的以外のなにものでもないよ。
この森に入るようになって、俺たちは全員揃いで長靴を買った。初日こそそれぞれに防水対策をしたのだが、雨具の必要性を実感したせいだ。足元ドロドロで大変なんだよ、この森。
なので、俺の機動力も大してあてにならず、エイダの機械弩とエリアスの魔術がメイン戦力になっている。俺の役目は避け囮だな。
そんな土地なので、出てくる魔物は水棲ばかりだ。カエルとかヒルとか。一番多くて面倒くさいのが、スライム。この世界のラップの原料だ。
例えば、今日の弁当として持ってきたサンドイッチを包んでいるラップも、スライムラップ。
伸び縮みはしないが色々なものにピッタリくっついて簡単に剥がせる、しかも水洗いして再利用可能。異世界らしい便利道具だ。
そのスライムだが、基本的には無害で自分より大きいものは襲わない。が、だからといって狩らずに放っておくと勝手にドンドン膨張して、やがて人間まで餌にするくらいまで成長したりするので、小さいうちに狩っておいた方が良い。
餌に覆い被さって体内で溶かす、典型的なスライムだ。核を潰せば死んでしまうところも典型的。死んだスライムは丸ごと素材として売れる。で、叩いてもぶよぶよで効果がなく、斬ってもさっぱり刃が立たないのも、典型的。厄介なヤツだ。
そんなスライムだが。
「うっわー。この池全部スライムじゃねぇか」
先行したエイダが呆れて言うから覗き込めば、元々は池なんだろうに全面ゼリー状に見える一帯が広がっていた。
スライムの繁殖力はネズミ以上といわれていて、分裂して数が増えるらしいからまさしくねずみ算だ。
襲ってくる様子はないので、飢えてはいないのか、人を襲えるほど大きな個体がいないのか。
「どうする? 根刮ぎいく?」
「持ち帰れるだけにしとこうぜ。で、ギルドに報告だな」
携帯端末でメモ書きできる地図を開いて場所をメモしてスクリーンショットを取っておく。ついでに、写真も撮っておこう。
最近は携帯端末担当が俺になっていた。スマホ慣れしてるおかげで、一番使いこなせると思われているらしい。慣れれば誰でも俺くらい使えるだろうにね。
盾を立てて陣地を作るのはドイトに任せて、エイダは周りの木の枝を吟味し始めた。ドイトが作った陣地の内側をエリアスが乾燥させて足元を整えていく。ヘリーは圧縮袋の中をゴソゴソと探っている。
「リツー。あの枝切り落として」
「はいよ」
指定されたのは、ちょっと高いところにあるまっすぐ伸びた枝だ。泥がはねるからとエイダを下がらせて、助走付けてジャンプ切りする。
余計な枝はダガーで落として、根元に布を巻いて持ち手を作れば、釣り竿の出来上がり。ヘリーが荷物から探し出した紐を先に括って枝の先を折って紐抜けを留めてやる。
釣るのは当然、スライム。
スライムというのは頭が良くないようで、動いていれば石ころでも食いつく。なので、釣り竿の紐の先に結んだのはそこらの石ころだ。
「じゃあ、いくぞー」
あまり気合いの入っていない声で、エイダが釣り竿を投げる。エイダが釣り上げ、エリアスが魔術で核を押し出し、俺が出てきた核を叩っ切る。残ったスライム素材はヘリーが圧縮袋にしまい、ドイトは釣られたスライムに釣られて襲ってくる別のスライムを弾き返すのが役割分担だ。
もうね、入れ食いよ、入れ食い。釣っては処理して、一連の作業をドンドン進めていく。狩りじゃなくて、作業だ。
ふと背後に気配がした。
「エイダ、ストップ。後ろから何か来た」
即座に全員が臨戦態勢になる。
振り返ったら、そこにいたのもぶよぶよしたものだった。何だか赤黒い、スライムかな、これ。
「うわ、グロっ」
「食後かな。獲物の血だろ、あれ」
「消化途中が見えなくて良かったねぇ」
「言うなよ。想像しちまう」
みんなそれぞれ感想が呑気だ。緊張感がないのは、身の危険を感じないからだな。
食後なら満腹だろうにぶよんと身体を伸ばして最前面にいた俺に襲いかかってくるから、ど真ん中を叩いて弾き返してやった。なんだろ、こんにゃくでも叩いているような触感だ。スライムの動きがスローリーなので、俺の思考まで呑気になる。
弾かれてひっくり返ってべちゃっと地面に落ちたのを、さっきから繰り返しているのと同じ要領で核を抜いてやって、戦利品とは別にして放置となった。
全身血だらけのスライムなんて、売れるのかね。出血じゃなくて体内の話だけど。
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