45.収入源ができました

 ワイルドベア出没により、調査結果が出るまでBランク未満の冒険者と一般市民に裏の山脈と繋がる森の立ち入り禁止制限が出てしまい、日の日に予定していた散策が中止になった。

 その空いた時間をその場でレイン教授が攫っていったわけだが。


「魔道具特許登録に付き合ってくれるな?」


 拒否の余地がなかった。


 この世界にも特許という考え方がある。仕組みはだいたい地球と同じで、全世界共通で1組織が管理していた。特許侵害の懲罰は国によるらしい。

 なので、この国で登録した特許は全世界で通用する。その分需要発生するのも全世界規模だから、有用な特許ほど金の生る木になりやすいわけだ。

 俺がレイン教授に無理矢理下地を作られて登録しようとしている魔道具は、一方は超古代文明の研究者くらいしか需要がないが、一方は全世界に需要が発生しやすいネタだ。何しろ自動充電乾電池みたいなものだからな。どれだけの収入があるかな。耐久性テストとか何もしてないから、どう転んでいくかは俺には未知数だよ。


 登録する特許情報は、魔道具に書き込む魔法陣と使い方、つまり根幹部分だけになる。

 特許使用料は開発者が自分で設定できるそうだ。この使用料と特許情報の有用性のバランスで開発者の収入が変わるそうで、組織で一律に定められるものではない、のだとか。

 ならば俺は、過去事例を参考に安い値段で提供しようかね。多売が予測されるから薄利で良いや。


「売り上げの1パーセントって。安すぎないか?」


「普及してほしいんで、良いんですよ。タダでバラまいても良いくらいです」


「それはダメだ」


 ダメなのか。もとあった魔法陣の一部を書き換えただけなんだし、俺の苦労はほぼない分対価が発生するほうが俺には違和感なんだけど。

 ま、こういうことは大人にお任せしよう。


 前もって資料をレイン教授が直々に用意してきているから、特許の申請はすぐに済んだ。承認されるのも一瞬だった。なにしろ前例のない効果の魔法陣だ。重複登録を審査員の誰も疑わなかった。一応調べはしたみたいだけど。

 特許料の支払いのため、俺を特許管理局の開発者会員に登録して、手続きは終了だ。


 で、その足で次に連れて行かれたのは、街の小さな工房だった。


「この子が一昨日話した魔法陣の開発者ッス。特許は今日申請して即日受理されたッスから、約束通り魔道具作ってくださいッス」


 レイン教授って、年上と砕けた話し方で話す時だけ口調が変だよな、なんて自分でもわかる見当違いなことを思いながら、俺は聞いているだけだ。

 奥から出てきたエプロン姿のお爺さんは、俺を訝しげに一瞥して、ふんと鼻をならした。


「本当にこんなガキがあれを作ったってのか」


 まぁ、信じられないのも無理はないが。この時代のこの世界の人なら、大人だろうが子どもだろうが関係なく無理じゃないかと思うので、その評価はどうなんだろう。


「疑われてるのはどっちですか?」


「どっちもだ」


「作った魔法陣の解説でもしてみせたら信じます?」


「そりゃあ……」


 解説されても理解できなきゃ信じられないのは変わらないだろうに。

 答えを言いよどんだお爺さんは、しばらくなにやら考え込んで、最終的に頭を下げた。


「悪かった、言い過ぎた。解説はもらわんで良い。特許に拘わる秘密を明かされても処理しきれんし、何よりワシが理解できるとも思わん。実現しているものを見せられとるんだ。それを信じよう。で、レイン坊。翻訳の魔道具をいくつだ?」


「学院のゼミ生に行き渡る分だから……15個ッスね」


「ふむ、良いだろう。明日までに作っておく。特許料の支払いは特許局経由で良いんだな?」


「はい、それでお願いします」


 話はついたなら俺はそれでよく、お爺さんとレイン教授が売買契約の手続きを始めたので、店の中を見て回ることにする。

 販売店舗は規模も小さくて、仲買人に卸して生計を立ててるんだろうなと思うほどだけど。並んでいる品は俺の素人工作と比べものにならないくらいにキレイな出来映えだ。

 こういうの見てしまうと、俺も精進しようって思うよな。まずは学校を出るところからだけど。

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