46.長期休暇までは冒険者修行です

 注文していた魔道具を受け取ったレイン教授は、長期休暇までには戻ってくるから待っていてくれ、と言い残して出張の続きに戻っていった。

 戻ってきた原因だった不祥事は、俺の後見人に名を連ねて態度を明らかにして、後は好きにしてくれと投げ出した形だ。まぁ、俺もスタンスは同じだ。俺の生活費だけ補償してくれれば、好きにすれば良いと思う。


 そんなわけで、約束の長期休暇までは学生生活を満喫することになった。行きたい場所はレイン教授に道案内してもらうし、身柄を拘束されそうな問題ごとは解決方法を用意したし。

 学生時代なんてのは自身の将来に備えて力を蓄える時間であるべきなんだろうけど、地球に帰れるのかこの世界に残るのかすらわからない今の状態で先のことなど考える余裕もない。すべてはまず、リョー兄ちゃんの遺産を見てからだ。


 なので。


「何にも考えないで学生生活楽しめば良いだろ」


「このまま俺たちのパーティーで冒険者しようぜ!」


「てことで、今度の週末は蒼滝の森でスライム狩りな」


 そういう生活を送ることになった。


 北国境になる山脈から続く森はしばらく立ち入り禁止だが、王都周辺には他にも魔物が生息する森は多い。むしろ、森に囲まれていると言っても良いくらいだ。山脈に比べれば魔物の強さも格落ちだが、逆に定期的に人の手を入れて食肉を確保するにはちょうど良いそうだ。

 今はBランク以上の冒険者は山脈調査に駆り出されていて、実力者の人手が足りない状態らしい。ギルドからも、積極的に狩ってきてくれ、といくつかの森を指定されているのだ。Bランク冒険者が常駐していた森だそうだ。


 週末はそうやって冒険者としての経験値を上げる方針で決定として。

 実は学院も、日々淡々と学業だけに専念させているわけではなく、季節ごとにイベントがあったり、中間期末テストがあったりと、意外に忙しい。

 現在学院のカリキュラムは年度上期の後半に入っていて、来月には期末テストを控えている。で、テストの無い今月は大々的にイベントが用意されていた。

 日程は、来週。イベント内容は、大闘技大会。武闘派向け個人戦トーナメント大会だそうだ。なお、大会期間は来週後半の3日間で、前2日が予選、最終日が決勝トーナメントとのこと。

 ちなみに、俺は出場が決定している。出る気はさらさら無かったのだが、エリアスに勝手に出場申請されていた。『隠し爪』は中学院では有名な冒険者パーティーで、そこに後から加入するアタッカーとして、実力を見せつけてこい、だそうだ。つまり、周りから文句を言われてもウザいので口を封じてこい、という意味と受け取った。


 学院のイベントなので、武器は演習同様木製が使用される。つまり、運悪く打ち所が悪かったりしない限り、死者は発生しない大会だ。相手はこの世界で生まれ育った強者ばかり。全力で対応させてもらおう。


「そうか、大会出るのか。今度の週末は、大会に備えて魔物討伐はやめとくか?」


「ん、いや、行くよ。魔物相手に慣れたい」


「今度の大会は人相手だけどな」


「むしろ今まで俺は人相手メインだよ。今更だね」


 剣術なんてそもそも戦争の手段だから。人の動きに対応する定石なら理論はいくらでもある。が、四つ足の動きなんてなかなか慣れるもんじゃないよ。夏休みに山籠もりしたところでな、一通り経験してみた程度でしかなり得ない。


「じゃ、予定通り蒼滝の森な。水場多いから足元の水濡れ対策しといて」


「りょーかい」


 ふむ。足元な。袴は膝丈に上げて縛っとくかな。ジャージって手もあるし。この際、拘らず楽な方で行くか。

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