43.ギルド支局長は驚きすぎです

 結局のところ、冒険者ギルドへは全員で向かうことになった。討伐の報告だけではなく、素材の売却や俺のランクアップなど、すべきことはたくさんあったから、手分け要員だ。

 主業務となるクエストのやり取りは端末で出来てしまうため有人窓口は比較的空いていて、ギルドに入ったレイン教授は空いている窓口に直行した。


「Aランクのレインだ。ウェルド支局長はすぐ会えるか?」


「はい。確認してまいります。お待ちください」


「緊急だって伝えてくれ」


 レイン教授が緊急と言った途端、バックオフィスがざわついた。こちら側は無反応なのと対局的だ。席を立った受付嬢さんも慌てて奥に走っていった。

 受付嬢さんとガタイのいいおっさんが戻ってくるまでも、すぐだった。俺が物珍しそうな顔を隠しもせずキョロキョロしていたら来た、というくらいの速さだ。


「レイン! 久しぶりだな! どうした!?」


 おっさんの声、デカい。あれか、冒険者上がりか。


「お久しぶりッス。詳しくは奥で」


 あくまでクマが出たとは言わないレイン教授から何を悟ったのか、それ以上の問いもなく同行者との関係も確認せず、俺たち全員を上階の応接室へ案内してくれた。


「で、何があった」


 円卓の応接室で全員が適当に座るのを待って、おっさんは挨拶も飛ばしてそう言った。

 この世界は上座だの下座だのにこだわりがないのかルールが違うのか、おっさんもレイン教授もさっさと扉そばに座ってしまったので、若者の俺たちが奥の席だ。

 端的なのはレイン教授も同じだった。


「ワイルドベアが出たッス。学院の管理森林エリア内ッス」


「なにぃ!!」


 残念ながら椅子に車輪はついていないため、勢い良く立ち上がったおっさんに蹴っ飛ばされて椅子がひっくり返る。


「いや、落ち着いてください。討伐済みッスから」


「お、おう、そうか。そりゃ良かった。いや、良かないが、まぁ良い。で、この子らは?」


「クマ退治の功労者ッスよ。うちの学生で、オレは先生らしく引率ッス」


「あぁ、そりゃスゴいが、さもありなんとも思えるな。早く成人しろや、お前ら。B級ライセンス用意して待ってるからよ。クマ退治の実績ありゃ文句なしだ」


 顔を見て納得したということは、支局長と呼ばれたこのおっさんにエリアスたちは顔を覚えられているということだ。Cランクなんて掃いて捨てるほどいるはずの中で、ほとんどの手続きを端末で済ませているエリアスたちが顔を覚えられているというのは、多分ものすごいことなんだと思う。

 まだ1年以上先ですよー、なんてみんなは笑ってるけどな。


「ん? 見覚えのない顔がいるな」


「それも支局長を指名した理由のひとつッス。俺から彼のランクアップ推薦出すんで、Cランクに頼むッスよ」


「そりゃ、お前の推薦なら通すけどよ。何モンだ、この坊主。妙な格好してやがるな」


 袴姿を訝られてしまった。いや、一応日本の民族衣装なんだけど、見慣れない人から見たらそりゃ妙かもな。

 妙な格好という評価には異論無いようで、レイン教授も苦笑いだ。


「格好はともかく。クマの首を一刀両断な腕前ッスから、実力も十分ッスよ」


「はあ?」


 当然のように疑われる横で、ドイトがいそいそと圧縮袋からクマの首を出して、机にドンと置いた。

 室内で改めて見ると、デカいな。よく斬れたなぁ、この首。


「……はあ? こんなの出たのか!?」


「はい。あ、買い取りお願いします。解体済みで全身分あります」


「いや、おう。ありがたく買い取らせてもらう。ちょっとこれしまえ。鮮度が下がる。で、これを切り落としたのがそこの坊主ってか」


「はい。うちの待望のアタッカーです」


 またもいそいそと、いや、流石に入れる方はひとりじゃムリで、俺も横から手伝った。圧縮袋にすっぽり収まったクマの頭を見送って、支局長のおっさんはデカい溜め息を吐く。


「確かに、刃物で切り取られた頭だ。お前らの技量に刃物の扱いはなかったからな。レインが手を出したんじゃなければそこの坊主なんだろうよ。分かった。推薦を受理しよう。坊主、今のギルド証を出せ」


「いえ、まだEランクなんで、無いです」


 出会ってから驚いてばかりのおっさんはまたも驚愕で固まって、もう驚き疲れたのか、頭をガシガシとかきむしって立ち上がった。


「クマの調査に、買い取りに、Cランクの登録だな。それぞれ担当者を呼んでくる。少しここで待て」


 今度こそゆっくり席を立って、おっさんは部屋を出て行った。その背中に哀愁が漂っているように見えたのは。気のせいだね、うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る