42.ベテラン冒険者は解体もプロです
帰り道。俺はエリアスとレイン教授に質問責めにあっていた。
曰わく、本当に日本は魔物もいなければ戦争もない平和ぼけした場所だったのか。
何故そこを疑問視するのかと思えば、俺の反応が問題だったらしい。初めてあんな巨体の魔物に遭遇すれば、この世界で生まれ育っていても慌てふためくもので、実戦経験のない素人の子どもが俺のようにどっしり構えていられるなんて有り得ないとか。
そう言われてもな。夏休みを山籠もりして野生の鹿や猪と追いかけっこして暮らしていれば、このくらいにはなるぞ。熊からはさすがに逃げたけど、遠目に睨み合った経験くらいならあるし。
「それは実戦経験がないって言わないだろ!」
「日本の熊じゃ魔物には程遠いぞ?」
そもそも、日本でも本州南側にいた熊は小さいんだ。俺よりは大きいが、体長1.5メートルそこそこがせいぜい。いや、待て、身長は俺の方が高い。辛うじて。
「そういう問題でもない!」
「どこの誰だ、こののほほんを作った師匠は」
「うちのじいちゃんですかねぇ」
あはは、と笑って誤魔化したら、笑い事じゃないと真剣に怒られた。何でだ。
ひとしきり笑って、レイン教授は急に真面目な顔になった。
「コイツの討伐報告にギルドに行く。このパーティーのリーダーは同行してくれ」
「リーダーは一応僕ですが」
はい、と手を挙げたのはエリアスだ。リーダーとはいえ上下関係などはなく、パーティー結成当時の直近の定期テスト順位で一番上だったから押し付けられたと聞いている。普段も全員の合議制だ。俺が入ったことで多数決がやりやすくなったと言われていたりする。
「端末から報告じゃダメですか?」
「ボアくらいならそれで良かったんだがなぁ。まだ管理区域なほどの浅い森にワイルドベアの出没は異常事態だ。ギルド主導で調査を入れる必要がある。で、ここでオレが報告に行くと、クマ討伐の手柄もオレの物にされちまうわけだ。実際見てただけだからな、それは申し訳ない。そこで、オレが引率した学生パーティーのキミらの存在が必要なわけだな」
「一番の手柄は見習いランクですしねぇ」
「そこだな。まぁ、Cランク推薦にはちょうど良い実績さ」
すみませんね。お手数かけます。アタッカーが俺だっただけで、みんなで力を合わせた功績だけどな。
あまり深いところまで入っていなかっただけに、入り口に戻ってきたのもあっという間だった。
鉄格子の扉は隙間から手を突っ込めば内側のロックが解除できるので、仕組みを知っている人間だけが簡単に開けられる仕組みになっている。まぁ、魔物でも賢いヤツは開けてしまうんじゃないかとは思うけど、少なくともネズミだのウサギだのイノシシだのには無理だろう。
で、台車になっていた空飛ぶ布もその上に載っているクマも狭い扉を抜けられないしどうするのかと思ったら。何の問題もなく柵の上を飛び越えてきた。障害物をセンサーで発見したら上に抜けるようになっているんだそうで。空中を飛んでいる分ロボット掃除機より便利だ。
こっちだ、と案内されたのは、柵からそう離れていない建物の影に設置された水場と焼却炉だった。実習の際は獲物の解体まで内容に含まれるそうで、その解体場なのだそうだ。
「さて、聞くまでもないだろうが、クマの解体経験は?」
「ありませーん」
「だろうな。じゃあ、臨時教習だ。クマの解体を教えるぞ」
いままではこの人は本当に教授なのかと疑い半分だったけど、確かにこの人は教授だった。魔道具作りを教わった時も思ったが、教え方が上手いんだよな。
やってみせやらせてみせてほめてやり、なスタイルのレイン教授指導の元、クマはあっさり部位単位に解体されていった。
あんなに巨大で脅威だったクマも、分解されてしまえば美味しそうな肉と有用な素材に変わるわけだ。内臓は焼却炉で灰にされ、頭はそのままギルドに持ち込みとなった。なんでもクマの頭は錬金素材の宝庫だそうで、高値で売れるらしい。それを聞いて、エリアスが大慌てで圧縮袋に放り込んでいた。
なお、圧縮袋というのはいわゆるマジックバッグだった。袋の中は何倍かの空間が圧縮された状態になっている代物で、その圧縮空間は真空なんだそうだ。温度は外気温そのままだし時間も当然経過するが、真空パックされるだけでも日持ちは違うだろう。
その圧縮袋のおかげで、このパーティーはみんなが軽装で済んでいるわけだ。日帰りだから荷物が少ないのかと思っていたが、そんなわけではなかった。道具運び用と獲物運び用の2つがパーティー共用資産となっているそうである。
なので、解体済みのクマの素材もその圧縮袋にどんどん格納されていった。5メートル四方まで入るそうだ。
クマ素材をみんなで協力して圧縮袋に格納している間に、イノシシも解体されてパッキングまでされて、これも入れてくれ、と渡された。レイン教授に。
いや、イノシシも結構大きいんだけど。解体早すぎです。
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