28.刀は特注になります
ロベルトさんから小切手を1枚もらった俺は、翌日の放課後、ドイトとエイダに連れられて鍛冶屋に出かけることになった。
昨日のロベルトさんへの元々の用事であった武器購入資金については、必要経費として生活費とは別に用立ててくれることで話がついた。2年生後半から戦闘訓練は実戦訓練が始まるので、それまでに自分に合った武器の調達は必要だったとのこと。
この世界に無い武器が欲しいのでどうしても高くなると思うのだが、誘拐事件を起こした教授先生に請求するから問題無い、とロベルトさんは人の悪い笑顔で言い切った。
初めてスクールバスに乗り、モノレールに乗って、向かった先は王都を端から端に横断した向こう側の山脈側郊外だった。
学園の建物群の中で最も外観が派手な、要は四角い無味乾燥な箱ではないという意味だが、管理棟に匹敵する、よく言えばお洒落な建物。それが冒険者ギルドだ。1階が色々な部門の受付事務、2階には貸し出しもされている会議室が並び、3階は資料室と依頼者用応接室、4階以上がギルド業務の事務室、という構成らしい。階段とエレベーターのそばにあった案内板にそう書かれていた。
ていうか、エスカレーターも驚いたけど、エレベーターも普通にあるんだな。そうだよな、高層建築物では必須だよな。
ここで何をするのかというと、俺の冒険者ギルド員登録とパーティーメンバーの追加申請だ。ゲームなら野良パーティーといわれるような臨時同行ならパーティーの構成人員の申請は不要だが、常時チームを組んで動く身内同然の関係性なのであれば、ここで申請しておくことで家族同然の行政サービスが受けられるようになるとのこと。
一番のメリットは、有事の際の連絡先だ。職業柄死亡事故が多発する業界だけに、死傷者が発生した際に自分の家族だけでなくパーティーメンバーの家族にも連絡がいく体制は、待つ家族の安心にも繋がるのだ。パーティーメンバーが天涯孤独でも他のメンバーの家族がフォローできる、というギルド側のメリットもあり、登録申請を推奨されている。まぁ、死傷者なんて出ないのが一番だが。
学院の学生証は、戦闘の専門教育を受けているという保証でもあるため信用が高く、申請はすぐに終わった。登録直後は見習い扱いのため金属のギルド証は発行されず、紙の仮証明をもらう。
次に向かったのは、今度こそ鍛冶屋だ。鍛冶屋の利用者の大半がギルド員なので、こういう武器防具の製造販売店も近隣にまとまってあるそうだ。
鍛冶屋の店頭には各種の武器が並べられていた。大きいものではタワーシールドなんかもあるので、武器に限らないようだ。
エイダが店員に声をかけているところから離れて、吸い寄せられて向かったのは剣が並んだエリアだ。壁に掛けられた片刃の剣が、遠目には刀に似ていた。
「それが気に入ったか?」
聞き覚えのない野太い声で振り返ると、仲間内で一番小さい、実はヘリーより小さい俺より背の低いずんぐりした髭面のおっさんがいた。ドワーフかな。この世界に亜人がいるとは聞いてないけど。
「形はこれが良いですね。反りも使いやすそうだし、長さも良さそう。ただ、ペラいなぁ。柄頭の飾りも困る。そこ握るし。もっと握りが短い方が良い。普段持ち運びに邪魔」
「……ずいぶんこだわりがあるな」
ふむ、と少し考えたドワーフみたいなおっさんは、踏み台を持ってきて飾ってあった剣を外すと、店の奥へ進みながら俺に手招きした。
「裏庭でちょっと振って見せてくれ。使い方を見たい」
行きがかりに木剣も持って行くから、俺も素直についていった。途中で合流したエイダによると、あのおっさんがこの店の店主で鍛冶師なんだそうだ。
店主とエイダとドイトが見守る中、軽く素振りと演武の触りだけ見せると、店主のおっさんは髭をしごきながら唸った。
「スピードファイターだな。重さより切れ味が欲しいところか」
「細くて長くて折れない曲がらない、っていう片刃の刀が理想なんですけど」
「無茶を言う。折れないと曲がらないは両立しねえぞ」
「聞いた話なんですが、粘りがあるかわりに曲がりやすい金属を堅いかわりに折れやすい金属で挟んで鍛えると良いそうです。こう、サンドイッチな感じで」
ペタンとと両手で挟む仕草をしながら説明したのは、もちろん日本刀の構造の話だ。
柔らかく粘りの出る配合の合金を心材にして、堅く鍛えた鋼で包む層構造で造られている刀は、鋭い切れ味と柔らかい心材で衝撃を吸収することによる耐久性を両立している。世界に誇る工芸技術なのだ。
それを、この異世界でも是非再現して欲しい。
「ふむ。なかなか面白い発想だ。ふむふむ、できそうだな。やってみよう。少し納期に時間をもらうが構わんか?」
「どのくらい?」
横から答えたのはエイダ。俺自身よりも一緒に冒険したい気持ちの強いドイトとエイダだから、武器の仕上がり時期は優先課題なのだろう。
そうだな、と顎髭をしごく店主に、ドイトが追い討ちをかける。
「来週の週末に間に合うか?」
「ふむ。あと8日はあるな。それなら大丈夫だ。来週の金の日にでも受け取りに来い」
「残金を用意するので、見積書をもらえますか? 手付け金は預かってきてます」
発注がそのまま決まったので、事務所に案内されて購入の手続きを進めることになった。
来週にはできるとは。特注品なのに、思ったより早いな。
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