27.魔道具技師を目指します

 資料のページをめくると、そこにはわざわざこの魔法陣が書かれたページをコピーした意図が記されていた。 

 執筆者であるガレリアンデルシク氏もまた、魔法陣下に書き残されていた一文に心を打たれていたらしい。それは、残されていた日付がリョー兄ちゃんの命日より未来であったことから、この招待の約束が果たされていない、魔法陣が使われていないことを悟ったからでもあった。

 自分が気づいた時にはそれから100年以上が過ぎていて、代わりに約束を果たすこともままならないこと。未来にこの資料を目にした賢者が時間軸を移動した転移魔法陣の構築を知っているなら、どうか代わりに約束を引き継いで欲しい、と。


 リョー兄ちゃんもこのガレリアンデルシク氏も、転移魔法陣が結ぶ時間軸はこちらの経過時間と一致しない、ということまでは知らなかったのだろう。知っているなら、リョー兄ちゃんが帰ってすぐに大人になった俺を呼べたかもしれないし。いや、時間指定の仕方がわからないと無理か。

 そして、俺を実際に召喚したこの時代の教授先生は、古代語を読めないまま、おそらく何らかの指定が施された転移魔法陣だという大雑把な憶測のもとにこれを起動したわけだ。同じ時間軸には存在しない俺を名指し指定されている魔法陣だから、偶然16歳の俺を拾ったのだろう。いや、魔法陣に成年であることを指定されているから、生物として成体に至った俺が呼ばれたのか。

 先人の想いを踏みにじって何て事をしてくれたんだ、と言いたいところだが、古代語が読めないことがそもそもの原因でもあるわけで、一定の理解はできてしまうのが地味に辛い。自分は巻き込まれた被害者なんだから、感情優先で怒って良い立場なのに。


 これは、翻訳の魔法陣を普及させないと第二の俺みたいな被害者が出る可能性が捨てきれないな。

 問題は、魔法の使い手がこの世界では超レアだということで。誰でも使える魔道具に落とし込め、ってことかな。

 魔法陣の構成は昔リョー兄ちゃんに教わったから、この召喚魔法陣も読み解ける。自分で新しい魔法陣も書ける。翻訳の命令文は召喚魔法陣に書き込まれてあるから、これを使えば良い。足りないのはこうして体外にある魔法陣を体内魔素を使う人が起動するための補助道具、つまり魔道具の作り方だけだ。

 魔道具の作り方を覚えよう。リョー兄ちゃんが作り出し、ガレ氏が普及させた、古からの人々への贈り物なのだから。弟の俺が引き継がないとね。いっそのこと、魔道具技師になる勢いで。


「落ち着かれましたか?」


「あ、はい。ごめんなさい。心配おかけしました」


 泣きじゃくった俺を隣で身体を寄せて支えていてくれたロベルトさんは、本当に優しい人だ。なので、隠し事は無しでいきましょう。魔道具作るならまず勉強からになるし、学校の授業内容をスキップして専門分野の勉強を始めようと思ったら手がかりとしてこの世界でツテの多い大人の協力は不可欠だし。


 読みかけの本はそこに置いたままにして、俺は改めてロベルトさんに向き直った。


「この資料のおかげで、俺がここに来た事情も分かりました。長くなりますが、聞いてもらえますか?」


 転移の魔法陣が書かれているだけに見える資料から俺個人の事情まで判明するとは思わないだろうから案の定驚いたロベルトさんは、驚きつつも考えを巡らせた中で誘拐事件の事情聴取に該当すると気づいたようで、胸ポケットから小さな手帳とペンを取り出して頷いた。


 では、語ろう。俺が子どもの頃に体験したファンタスティックな出会いと別れの物語と、資料に記された過去の偉人たちの想いを。

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