29.これなら俺も作れそうです

 せっかく街に出てきたから、とエイダたちと連れ立って街中散歩となった。鍛冶屋は先ほどのドワーフみたいな店主の店が行きつけらしいが、当然防具屋も行きつけがあってそこに案内されたり。

 そういえば、防具も要るよな。当たり前だが。

 で、俺の戦闘スタイルだとプレートアーマーなんかは論外で、レザーアーマーでも試着したら腹周りの動きが阻害されて邪魔だったという結果に。


「この際厚布の服でよくねぇ?」


「だよなぁ。リツ、攻撃に当たるなよ。回避鍛えろ」


 結論、無茶振りされました。

 いや、言いたいことは分かるし、全面同意なんだけどな。

 せめて心臓は守りたいということで、金属板で補強された胸当てだけ買いました。これなら高くないので自分の生活費だけで余裕で買えた。


 他にも冒険者稼業に必要な道具を取り扱う雑貨屋とか、保存食専門店とか、アウトドアウェアの専門店とか、専門ごとの店が軒を連ねている。

 その中に、魔道具屋もあった。日本の店で例えると、キャンプ用品店かな。屋外で使う便利な小物が色々売っている。ランタンとかコンロとか。簡易トイレ用の穴掘り道具とか。

 日本にもあったものやこの世界特有の発想で出来たものとか、見て回るだけでも楽しい。


 その中に、魔石を革紐で括って吊っただけというペンダントがあった。

 値札に書かれた商品名は、暗幕なのだが。


「何? コレ」


 横であれこれ説明してくれていたふたりが揃ってニヤニヤと気持ち悪い笑いかたしてるし。


「女子必携アイテムだよ、それ」


「女子……?」


 何故に女子限定。

 ニヤつくふたりをせっついて説明させると、結局納得な必携アイテムだった。野外で催したり着替えたりと脱ぐ機会に見舞われた際の、目隠しに使うものなのだそうだ。

 魔石は見た目はひとつに見えるが複数のパーツを組み合わせて作られていて、ふたつに分かれて刻まれた魔法陣をちょっと捻って形を合わせると起動するようになっており、起動すると半径1メートルの闇の幕を張るらしい。外から見られないかわりに中からも外が見えないので、監視などの隠密行動には向かないアイテムだそうだ。なので、女子必携といわれている。

 いや、男でも必要じゃないの、それ。


 魔法陣は魔石に直接刻まれていて、動力は魔石そのもの。魔石に含有する魔素は別の機械で充填可能だから、ヘタって脆くなるまで繰り返し使えるそうだ。

 俺の感覚からいうと、充電式電池がそれ単体で動くツール、といったところか。


「何気に超便利。買っとこ」


 繰り返し使える分お値段もそれなりにするが、大事に使い倒せば良いことだ。

 必要を感じないらしいふたりからは否定的な反応だけどな。俺は野外トイレに目隠しが欲しい現代っ子だ。


 しかし、この方法。俺が今作りたい翻訳魔道具に使えないだろうか。

 そもそも翻訳魔法は魔法師だったリョー兄ちゃんが自分自身にかけていた魔法陣魔法だ。そして、転移魔法陣に組み込むことで俺にかけてくれた魔法でもある。つまり、大気に魔素のない地球でも使えたし、体内魔素のない俺にかけられているのだから、汎用性は高いはず。

 ただ問題は、脳神経に作用する魔法なので外部起動で使えるか不明というところなんだけど。


 友人たちに実験に付き合ってもらおうか。


「基本的にみんなで使うものはパーティー費用で揃えてるから、買うなら個人的に欲しいものだけで良いぞ」


「火種とか水とかも魔道具揃ってるから心配いらないからな」


 急に考え込んでしまったからか、両隣からふたりに心配されてしまった。申し訳ない。


「うん、大丈夫。何でもない。違うこと考えてた」


「違うこと?」


「そう。この魔道具の仕組みを流用して今やりたいことに応用できそうだな、って。近いうちに協力頼むかも」


「おう。その時は遠慮なく言えよ」


 他にもいくつか個人的に気になった物を持って会計に向かう。後ろから、魔道具の仕組みを応用ってことは魔道具作る気か、意欲すげぇな、なんて声がちゃんと聞こえてた。

 意欲っていうか、俺にとっちゃほぼ義務感だけどなぁ。

 誘拐被害者としては、後続の同罪被害者阻止に必要なアレコレが目に見えていて、魔道具産みの親を自称兄にもつ身であれば、避けられない流れだろ、これ。

 後のことは俺は知らん、といえるほど厚顔になれない質だよ。お人好しと言われれば自覚はある。否定しないです。

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