23.衝撃の事実が判明です

 放課後は予定通り、ショッピングモールの古本屋に向かった。今日は部活もないというエリアスが一緒に行ってくれた。

 絵本から中古教科書に至るまで、魔術と魔法の入門書や概論書籍をピックアップしてくれたので、俺は言われるままに金を出すだけで済んだ。


 そのままショッピングモール前のバス停で別れて、本で重くなった荷物を手に帰宅する。ちなみに絵本は立ち読みで済ませた。


 キャレ先生から夕飯のお誘いをいただいて、約束した時間までの間に簡単な本から読み始める。この世界の食文化の中では異質な、緑茶がお供だ。なぜかスーパーで普通に紅茶の茶葉に混じって売ってたんだよ。


 今まで触れてきた通り、この世界には魔素という目に見えないエネルギーの素が充満している。それは生き物の体内にも当然含まれていて、人間はその体内魔素を自分の思い通りに操る機能を持っている。

 魔術というのは、体内魔素をエネルギーとして、呪文詠唱を通じてイメージを膨らませて実現する形に練り上げ、発動語をキーワードにして実現させる術だ。決まった詠唱に則って決まった形に魔素を練るため、表れる結果はみんな同じ形になる。費やす魔素の量に応じて威力の大小がある程度だ。

 一方、魔法というのは、自然界に漂う魔素を集めて空気中に設計図をその場で構築して発動するため、設計図を改変できれば発動できる現象の可能性は無限大であるらしい。

 さらに、空気中に描くその設計図を固定して動くように加工したものが、魔道具なのだそうだ。


「つまり、設計図の出所が違うだけで、みんな魔法使ってんじゃん?」


 独り暮らしすると独り言が増えるらしい。話には聞いていたが、まさか自分にそれが当てはまるとは思わなかった。

 まぁ、それはともかく。


 その設計図は円形を基本としているらしい。入門書には、これができたら魔法使いの素質があるとして、その場に火を起こす魔法のサンプルが描かれている。真円の真ん中に、この世界で使われている表音文字と違う文字がひとつ描かれた、シンプルな魔法陣だ。たぶん召喚されたときに付与されたと思われる翻訳能力が、それを『炎』という表意文字だと示した。


 ていうか。この文字、見覚えがある。


「ちょ、ちょっと、待て。えー?」


 この、本来空気中に描く魔法陣を道具に固定して使う、いわゆる魔道具を世に作り出したのは、超古代文明を大きく発展に導いた魔法陣魔法中興の祖、ガレリアンデルシクが師と仰いだ魔法師、リョーテエイデルアンデリアという人物だそうだ。


 その舌を噛みそうな長い名前。聞き覚えがある、なんてもんじゃなかった。


「ってことはもしかして、俺を召喚した転移魔法陣、ピンポイントで俺を示してたんじゃないか?」


 昔々、まだ小学1年生だった頃、半年ほど剣術道場を営む祖父宅に居候していた異世界の魔法師がいた。その名もリョーテエイデルアンデリア。俺はリョー兄ちゃんと呼んで懐いていた人だ。

 彼と帰還間際に約束をしていたのだ。次は彼の住む世界に、遊びにおいで、と。なので、俺を呼ぶための魔法陣が残っていても、おかしくはない。


 まさか、リョー兄ちゃんが亡くなってさらに文明が一度滅びた後の世界に召喚されるとか、思わないだろ。全然違う世界だと思ってたよ。

 でも、それなら少し希望がある。俺を呼ぶ魔法陣が描かれた書物に地球に帰るヒントがあるかもしれない。リョー兄ちゃんが一番最初に偶然道場の裏庭に出てきた時の情報を書き留めていれば、同じ方法で帰れば良いんだ。


 ただし、ここで問題がひとつ浮上する。

 リョー兄ちゃんが生きていた時代と現在に何百年とかの差があるとすれば、つながる異世界の時間軸は平行じゃないわけだ。こちらの何百年が向こうで10年しか経たないとか、さすがに差がありすぎる。

 ということは。俺が暮らしていた時代に帰れる保証がないってことじゃないだろうか。


「問題山積みじゃねぇか」


 大きな手掛かりが見つかっただけマシだけどな。




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お待たせしました。

あらすじに追いつきました。

幼少期の出来事はコレクション内別短編へどうぞ。

↓にリンクがあるはず。

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