24.そもそも古代語が読めないそうです

 キャレ先生からのお誘いは、お願いしていた木剣が手に入ったためその受け渡しが目的だったそうだ。できたら片刃のものが嬉しい、と言っていたので探してくれたそうで、サーベル形の木剣だった。

 キャレ先生ありがとうございます。


 夕飯はキャレ先生が運転する車で学院の敷地から出た街中の店に案内された。

 何気に異世界の街初体験だ。

 エイダとエリアスが実家通いなのでスクールバスが駅まで通っていることは知っていたが、横を通ったそれはモノレールだった。つまり、頭上を電車が通っている。

 車は魔素集積魔道具を使った魔素動力の箱型で、燃料の補給も不要だし排気ガスもないクリーンな乗り物。見た目は俺もよく知っているワゴン車なので、これが道を走っていても俺には違和感が無い。ちなみに車道は左側通行の日本仕様だ。


 これ、リョー兄ちゃんの仕業かな、もしかして。

 そう思いつけば、他にも心当たりはたくさんある。冷気利用効率を考えれば冷凍室が上だろうに冷凍室は一番下に配置された冷蔵庫とか。仕組みもそのままな電子レンジとか。上を走っているモノレールも、見た感じうちの地元を走っているモノレールに似ている。便座のあったかい水洗トイレも、給湯器が外に付いた風呂の構造も、全く同じだったしな。きっと、道路の下には上下水管とガス管が埋まっているのだろう。


 到着した店は、魚料理が美味しい薄味の創作料理の店だった。若い癖に動物脂が胃に重いと言っていた俺のために選んでくれたのだと思う。心遣い感謝だ。キャレ先生自身、年のせいか脂や塩分が苦手になってきたため気に入っている店だとのこと。

 メニューにはカルパッチョなんてものもあった。内陸部なのに、と思うのだけど、冷凍技術と輸送力が海の幸を内陸部に運ぶ快挙を担っているそうだ。

 日本では当たり前に受けていた恩恵が、同じように提供されるのに感動してしまうのは、剣と魔法の異世界にいる意識のせいかな。食文化がヨーロッパ的なせいもあって、典型的中世ヨーロッパなファンタジー世界をどうしても思い出してしまう。


 食事中の話題は俺が日々体験するこの世界の俺視点による体験談だ。

 なので、今日は演習のことが話題になるはずだったのだが。放課後ついさっきの衝撃の方が強かった。


「大気中の魔素を集める方法があれば、魔法は使えそうですよ」


「それはおめでとう。だが、その魔素集めが最大の難関だからね」


「ですよねぇ。魔道具でなんとかなりませんかね」


 車の動力で既に魔素を集める魔道具自体はあるのだから、それを人が使えるように加工して魔法陣に流す方法を考えれば良いだけだ。

 今ある道具を別用途に使う発想はなかなか起こらないようで、キャレ先生はいまいちピンときていない様子だ。

 しかしそれよりも、もっと大事なお願いがあるのだ。キャレ先生には頼ってばかりで申し訳ないのだけど。


「ところで、相談があります。俺をこちらに呼び出した魔法陣が描かれた書物を読みたいんですが、借りることはできますか?」 


「ふむ。自らが巻き込まれた事件の参考物件なら借り出しも可能だろう。手配はできるよ。でも、超古代文明期の発掘品原書だったそうだから、古代語で書かれていて読めないと思うんだが、どうかな」


「現代語とは違うんですか?」


「全く違うらしい。私も見たことはあるが、全く読めなかったよ。専門の研究者たちが解読を試みているそうだが、解読に成功したというニュースは聞いた覚えがないね」


 あれ。先生が読めないだけでなく、現代人の誰も読めてないってことか。

 ここで俺が読めることなんか判明したら、面倒くさい目に合いそうだ。翻訳させられて身動き取れなくなるんじゃないか。

 これは、翻訳の魔法陣を早々に作るべきだな。うん。

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