22.もうとっくにプロでした

 集合してこの時間の学習内容の説明を受けると、指示に従ってバラけていく。

 俺たちは、下級貴族の次男以下が集まったパーティーと模擬戦闘を指示された。


「作戦会議と言っても、僕たちはチームとして完成してると自負してるし、リツをうちのチームにどう配置するかが問題だね」


「リツくん、補助魔術受けられる? 掛けてみていい?」


「俺とエリアスで相手をドイトにチマチマ集めてリツに叩いてもらう感じかね」


「どうせ演習じゃエリアスも大技ぶっ放せないし、良いんじゃないか?」


 現在作戦会議の時間を与えられて円陣を組んでいるわけだが。これは作戦会議と呼んで良いのだろうか。

 とりあえず、気になることはひとつだけだ。


「叩くのは良いんだけど、死亡判定基準はどうなってるんだ?」


「頭と胴体に攻撃を受けたら死亡と見做して戦線離脱。手足の負傷は続行だよ」


「例えば、寸止めとかは?」


「武器が当たらなきゃ致命傷とは見なされないよ。混戦だと審判の目も届かないし、死亡の自己申告なんて誰もしない」


 そうか。見てなきゃバレない、が常態化してるわけだ。生き残ることを第一目標とするなら生き汚さは重要だろうけどな。演習でそれがデフォだと誰も手加減とか寸止めとかしてくれなくなって、結局物理的に痛い目に合うのは自分だと思うんだけど、どうだろう。

 ともかく、寸止め無しの方向で怪我はしないさせないを目標に据えておこう。


「あぁ、リツに忠告。学院生なら身体強化は自前で付与してるのが標準だから、思いっ切り叩きのめして良いぞ。骨折る勢いで叩かねぇと離脱しないからな」


 前言撤回。全力でいこう。


「じゃあ、やるか!」


「おう!」


 エリアスの掛け声で、俺たちは指定された戦場に立った。


 パーティーは最大6人で組まれている。エリアスたちはそんな中でも4人で組んでいて、それでも学年最強パーティーだったそうだ。

 それもそのはず。彼らは学生でありながら冒険者ギルドに登録していて、休日にはバイト感覚で大人に混じって狩りに出て成果をあげてきている。つまり、実務経験が豊富なのだ。どんなに厳しくても模擬戦闘でしかなく、命のやりとりまではしたことがない一般の学生に、負けるはずがなかった。

 そんなパーティーに参加させてもらって本当に良かったのか、今更不安だ。


 地面に記された円形のフィールドは、その外に出たら継続戦闘不可のルールがある。つまりフィールドから追い出すのも勝つ手段としては認められる。ただ、この授業は外敵との生存をかけた戦闘訓練というお題目があるため、後で教師に叱られる手段だ。これには例外もあって、正規の武器なら明らかに死んでいるだろうと思われるほどのダメージを受けていながらフィールドに止まる相手を排除する目的で、フィールドから弾き飛ばすのは有効だそうだ。

 今回の相手も、そういう厄介な相手だった。確かに身体強化していない俺の剣は軽いだろうけどさ。当たりは手加減してるしさ。とはいえ、死亡判定は出てるんだから諦めろよ。


「おい、ドーラ! 首も腹もとっくに斬り飛ばされてるだろ!」


「あんな蚊に刺されるより弱ぇ攻撃で死ぬかよ、バカが!」


 蚊に刺されるより弱いってどんなんだ。羽毛に撫でられるとかかな。


 こういう頑固者はドイトに任せて、俺は他の相手に回る。パーティー戦はひとりだけ残っては意味がないからね。それぞれが役割を果たすことで味方全体の損耗を防ぐことも、学習内容のうちだ。

 まず狙うのは後衛から。相手も壁、遊撃、魔術火力、回復という構成だから、壁と遊撃手を抑えれば防衛に無力な後衛は攻め放題だ。問題のドーラ氏は遊撃手らしく、もうひとりの遊撃手はすれ違いざまに首裏を軽く払って戦力外通告し、壁氏はエリアスとエイダの牽制に任せる。狙いは魔力を練っている魔術師氏。


「悪いね、死んどいて」


 もうひとりの魔術師氏も詠唱を進めているから余裕もない。がら空きの脇腹から突っついて息を詰まらせ、背中を払って落とす。続いてもうひとりも。補助回復役の子が回復させようとしているから、そっちにも素早く寄って肩から叩き落とした。

 俺の背後、つまり味方たちが、後衛が沈んだのを確認して総攻撃をかけ、決着はすぐについた。


 その場にしゃがみこんだ魔術師氏ひとり目が、疲れた顔で俺を見上げて、しみじみと言った。


「最強パーティーに物理火力増やしてどうすんだよ。勝ち目無ぇじゃねぇか」


 ですよねぇ。

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