19.日課を再開します

 俺の朝はジョギングから始まる。


 召喚される前の日常に生活を戻すことにしたのは、昨日夕飯持参でキャレ先生と相談してからだ。

 今まではこちらの世界に順応する方にばかり意識が向いていて、日本でどんな生活をしていたのかをキャレ先生にも話したことがなかった。それで、友だちに事情を明かしても良いか、を確認する会話の流れから俺の日本での生活に進み、その日課を継続したらどうかと勧められたわけだ。


 俺の父方の実家は、門下生を多数抱える剣術道場を経営している。俺の自宅から徒歩3分のご近所だ。その関係で、子どもの頃から修行に参加していた。

 剣術と剣道は、その在り方がまったく違う。うちの道場だけかは不明だが、重い防具は着けないし、竹刀も使わない。使うのは小袖に袴、最初から木刀だ。

 訳があって俺は将来剣術を実戦で使う予定があったから、即戦力を育てるような厳しい稽古をつけてもらっていた。だからなおさら、剣道とはやっていることがまったく違った。

 なので、通っていた高校にも剣道部はあったが、俺は所属しなかった。部活動必須の学校だったため、代わりに、考古学愛好会という同好会の所属である。近所に貝塚があったりして、結構楽しかった。

 そのため、剣術の稽古は夕飯後の夜間に回したし、朝は体力作りのためジョギングから始まるのだ。


 学院のグラウンドから管理森林エリアの入り口まで含めて外周を2周する。普段ならこのあと木刀を持って素振り10セット、となるのだが、木刀の代わりになるものがないのでジョギングだけで朝のトレーニング時間を潰しておいた。

 木刀の代わりに木剣を用意すると、キャレ先生が約束してくれたので、ありがたく待ちます。


 その後、朝風呂を浴びて朝食を摂って、登校となる。

 寮のエリアにある食堂でも朝食は提供されているし、寮生の朝晩の学校関係者向け食堂での食事は寮費に含まれているため都度精算不要なのだが、食堂の朝御飯が地味に胃に重くて辛かったので、もっぱら自炊だ。

 パンとスープがあれば十分です。本当は米が食べたいが。


 教室に入ると、エリアスくんが既に登校していた。

 そういえば、人によってくん付けしてたりしてなかったりするのは何故だ、俺。くん付け無しで統一しよう。


「リツ、おはよう」


「おはよ」


 今日も朝から爽やかですな。朝が似合う人だ。

 朝早くから来ていたエリアスは、この待ち時間を読書にあてていたようで、机には大判のハードカバーの書籍が置かれていた。俺が近寄ったことでエリアスの手に閉じられた本のタイトルは、魔法学概論。


「魔法の勉強?」


「まずとっかかりとしてリツに勧められるかと思って試しに読んでみてた。大学院の専門教科の教科書なんだけど、いきなり専門的な視点で書かれててさ、これの前に基礎学校で使う大ざっぱな説明がされた資料が必要かな、って思うよ」


「俺のためだったんだ。ありがとう」


 その教科書はどこで買えるのかを聞いてみた。ショッピングモールに入っている古本屋で捨て値で売られているそうだ。

 てか、ショッピングモールに古本屋が出店しているとは珍しい。学院に付随した施設ならでは、ということかな。

 ともかく、今日の放課後の予定ができた、ということだ。

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