18.贅沢な夕飯は自炊します

 ニコル会長が爆弾を投下したまま仕事に戻っていき、エイダの問い詰め先がこちらに移動した。とはいえ、一応学院の風聞もあって口止めされている身なので勝手に話すこともできず。

 後見人に相談してみる、ということで一旦持ち帰りとさせてもらう。エイダは不満そうではあったけれど、そこで引いてくれた。


 学内案内はそのまま特別教室棟へ移動し、運動施設へ移動しながら、放課後活動している部活動をアチコチ覗いて回った。音楽室ではこの世界での楽器を演奏していたり、別の防音室では合唱していたり。会議室っぽい部屋では調べ物をしていたり、何やら実験していたり。魔術の練習をしているような部活もあれば、単純にスポーツを楽しんでいる部活もあり、武器を振り回している部活もあり。この辺のラインナップも、日本と大して変わらない。

 俺も日本にいた頃は放課後は部活の仲間とワイワイやっていたものだが、この世界では同じ活動の部活でも趣が違いそうだしな。続けるという選択肢は無さそうだ。

 まぁ、良いか。入りたい部活動がないなら、その時間を自主トレに割くだけだ。


 移動中は無駄話が弾んで、この世界の同年代が持つ常識を言葉の端々から学習していく。むしろこの時間の方が有意義だった。

 自宅へ帰るエイダが最寄り駅行きスクールバスに乗り込み出発するまでを見送り、俺はショッピングモールへ足を向ける。初登校記念に、久しぶりに料理しようと思って。

 食堂だと定食になるから、贅沢もできないしな。


 料理道具と基本調味料は初日に用意済みなので、必要なのは食材だけだ。この世界、文明が発達しているのに合わせて衛生観念も発達していて、生卵が食べられるレベル。ということは、マヨネーズが作れるのだ。やったね。


 本日の食材は、目玉商品になっていた暴れ牛という魔物のヒレ肉と、堅焼きパンに食パンっぽいやわらかパン、卵、サラダ菜、きゅうりっぽい野菜、一番搾りの植物油とビネガー。あと、総菜のポテトスープ。

 帰宅したら調理開始だ。まずはマヨネーズ作りから。

 母親が、全日勤務の会社員で母親業までフル稼働なのに、料理が趣味で調味料を自作するタイプだった。味噌まで自家製。家にいる時間の長い子どもは当然お手伝いに駆り出され、つまり俺もそこそこ料理ができる。マヨネーズ作りはいつの間にか俺担当だった。そりゃ、筋力は女性である母や妹には負けないけどな、疲れるもんは疲れるんだぞ。自分で食うものだから文句は言わないが。

 全卵を解いて塩こしょうマスタードで少し濃いめに味を付け、酢をしっかり混ぜてから、少しずつ油を足しつつひたすらかき混ぜる。サンドイッチソースにする予定だから固めに作ろう。

 出来立てマヨネーズを冷蔵庫に入れたら、次はパン粉作り。堅焼きパンの外側部分を炙って湿気を飛ばし、卸し金で摺り下ろす。以上。

 最後にお待ちかね、魔物肉の登場。気持ち厚めに切り分けて、下味を付け、小麦粉、溶き卵、パン粉をまぶす。

 作っているのは、ヒレカツサンドです。カツを揚げたら、少し冷ます間に野菜を千切りにして、野菜、マヨネーズ、カツを挟み、出来上がり。


 時計を見上げたら、ちょうど夕飯時だ。

 キャレ先生から預かっている携帯端末で、居場所の確認とこれからの訪問許可を取る。サンドイッチを皿に盛り付け、スライムラップをかけて、買っておいたポテトスープも忘れずに持って、医務室のある管理棟に出発。

 キャレ先生、気に入ってくれるといいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る