17.友人たちも訳ありでした
放課後、帰宅部で実家暮らしのエイダが学内案内を買って出てくれた。
初学院や大学院は除外として、学生生活で足を踏み入れる必要のある中学院全域と共用部分は知っておいた方がいい、というのが全員一致見解だったし、俺も同意見なのでありがたい。
中学院に割り当てられた敷地は、他もそうだが、森の中に低層の建物が建てられているといえる緑豊かな空間だ。校舎は2階建てで、1学年1棟割り当てられていた。その他に理科実験室や防音室などがまとめられた校舎と、学生会室や会議室と教員用の個室が入った高層の建物もある。
学生会というのはつまり、生徒会だ。教員棟といわれる高層の建物の1階にあって、学生主催イベント等の取り仕切りを任されている学生代表者が集まっている。
学生会メンバーは冬の選挙で選ばれて1年間の任期がある。だいたい3年生で、つまり2年生の最後に選出されるわけだ。
なお、ここの学年は日本と同じように春に年度が変わる制度だ。
エイダに道案内されていたら学生会室で仕事をしていた会長に見つかって声をかけられた。直近のイベント予定もない放課後に教員棟に用がある学生はいないため、気を引いてしまったらしい。
「やぁ、エイダ。ここに来たということは気が変わってくれたかな?」
「アホぬかせ。転校生に学内案内してんだよ」
「あぁ、彼が噂の」
相手は学生会長だと自ら説明したはずのエイダが、学生会長相手とは思えない口調で反論し、相手もまたその反応を気にも留めていない。何事かと混乱する俺の反応は当たり前だと思うんだが。
俺の内心などわかるはずもない学生会長が、穏やかにニコリとこちらに笑顔をくれる。
「やぁ、こんにちは。私はニコル。家名はソノアーラといって、侯爵家当主嫡男だ。この中学院学生会長を務めているよ。よろしく」
「は、はじめまして。リツです。保険医キャレ先生に後見いただいて、デクトレアの家名を名乗らせていただいています」
「うん、聞いてる。災難だったね。エイダと一緒にいるということは、クラスでは彼のグループに保護されているのかな。2年生では一番の実力者グループだ。極力離れないことをオススメするよ」
ニコニコと裏の無さそうな笑顔で、今日知り合って構ってもらいだしたばかりの友人たちに最上級の評価を披露する学生会長に、俺はますます混乱の一途だ。
隣ではエイダが大袈裟だとかなんとか悪態を吐いていたりする。
「え、と。エイダをよくご存知なんですか?」
「うん。従兄弟だからね」
「おう。従兄弟だからな」
おっと。ふたりからほぼ同じ回答が同時に返ってきた。エイダからは舌打ち付き。ニコル会長は可愛い年下の従兄弟を可愛がる態度がよく滲み出ていて、対するエイダは身内を紹介するハメになった気恥ずかしさみたいなものが感じ取れた。まぁ、他人がここにいなければ仲は悪くないんだろう。
しかし、家名が違うし親の爵位も違うし、どちらかは母方なんだろうな。
ふたりの関係性の謎が解けると、今度はニコル会長の仄めかした内容の方が気になるんだけど。
「うちのクラスって学年最下位って言ってなかった?」
「おう。最下位だ」
「エイダたちはね、実力だけならトップクラスなんだよ。ただ、去年の進級テストで全員が示し合わせて白紙回答するっていう暴挙をやらかしてね。ヘタしたら落第だったっていうのにムチャをしたものだよ」
「良いじゃねぇか、無事進級したんだから」
「日頃の成績が良いのに、たった1度のテストだけで落第にはさせられないだろ。学院の評判にまで悪影響になってしまう」
何でまた、そんな暴挙を。杓子定規な体質だったら留年か退学処分だっただろうとは俺でもわかる。
聞いてみれば、ニコル会長から苦笑が返ってきた。どうやら、ヘリーくんがクラスメイトの別グループからイジメの対象になって、別のクラスに移りたかった、という事情らしい。成績順のクラス編成では翌年もクラスメイトになるとわかりきっていたため、クラスを移るには成績を下げるしか方法がなく、彼ら4人が離れ離れになる気もさらさらなかったため、極端な方法に打って出たと、そういうわけだ。
そのおかげで良い友だちに出会えた俺は、その暴挙に感謝しかないけど。この自称落ちこぼれどもめ、実情は落ちこぼれとは真逆なんじゃないか。
「そういう友情厚い彼らだからね。私から助言だ。君の事情を隠さず告げておくと良い。助けてくれるだろう」
「そりゃ、リツは良い奴だし、助けるけどよ。なんだよ、事情って」
「それは、本人に聞くことだね。学生会長の立場だったから耳にしたけど、私にも守秘義務があってね」
なんだそりゃ、とエイダは不満げだけど。パチンとウインクするニコル会長に、俺はその検討の価値を実感させられてしまった。
キャレ先生に相談かな。
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