16.ありがちな子どもの夢だそうです

 そして話題は俺の学力から魔法へ移っていく。


「僕はリツなら案外簡単に魔法使えるようになるんじゃないかと思うんだ」


「その根拠は?」


「体内魔素が無いなら、魔術の発動に必要な魔力練りも体感してないわけじゃない? ある意味魔素の感じ方は余計な先入観が無いってことだよね」


 魔法と魔術の違いは、大まかに云えば、体内魔素を使うか大気中の魔素を使うか、というものだ。そして、普段から魔術を使う生活をしている彼らは、大気中の魔素を使おうと意識しても体内魔素の感覚が邪魔をしてしまうらしい。それで、魔法使いというのは世界的にも稀有な存在となり果てた。

 ならば、その邪魔になる体内魔素が無い俺なら、魔法を使えるようになるのではないか、という流れだ。そもそも魔素って何、な俺自身はそう簡単には思えないけどな。


「でも、本当に魔法使いになれたら、あっという間に大人気になるよねぇ。みんな小さい頃憧れたでしょ、魔法使い」


「だよな。チビの頃はどいつもこいつも、将来の夢といえば魔法使いだったな」


「ドイトは違うみたいな言い方して。憧れたでしょ?」


「そりゃ、魔法使いでSランクの冒険者、とか男なら憧れないヤツはいねぇだろ」


「冷静に考えれば、魔法使いになれるならわざわざ冒険者なんて職は選ばないわけだが」


「だよねぇ。魔法使いってだけで裕福に生きられるのにわざわざ命かける仕事とか就かないよねぇ」


「ガキの夢にケチ付けんな」


 なるほど。医者とかパイロットとかスポーツ選手とかのような、幼い子どもが憧れがちな将来の夢なのか。まぁ、手の届かない花形職業といえるのは確かだ。

 この年になって、そんな夢の職業しか未来がないとか、ハードモードかな。運良く魔法使えたとしても、目立つこと必至だ。


「えー。バーンと目立っちゃえば良いだろー」


「悪目立ちする未来しか見えないよ。万人に好意的に見られるような善人じゃないし」


「そんな善人胡散臭い」


 ヘリーくんにバッサリ切って捨てられた。そうかねぇ。目立つ人間には清廉潔白な善人でいて欲しいけど。理想高いかな。


 しかし、こんなに文明レベル高くても高ランク冒険者は憧れの職業なのか。魔物被害がどれだけ身近かって話だなぁ。


「みんなは冒険者に憧れた?」


 せっかく話に登場した花形職業だし、と思って聞いてみたら、全員に注目されてしまったわけだが。そんなに常識か。憧れの職業なんて、いくつか候補があってしかるべきだろうに、そんなに驚かなくても。


「リツは違うのかよ?」


「俺は、ほら、体内魔素ゼロだから」


「あ、そっか。強化魔術も使えないのか」


 言い訳したら納得された。強化魔術というのは、この世界ではそれだけ誰でも使える魔術らしい。キャレ先生曰わく、高位貴族からド田舎の農家まで、だそうだ。体力も腕力も向上するし疲れも取れやすいという便利さなのだとか。

 優秀な学生が揃えられたこの学院だと、強化魔術が使えること前提に学校施設が作られている部分もあるため、不便を感じたら周りに助けてもらうように、と言われていた。


「憧れというか、この学院を戦闘専科で卒業したら選択する職業のひとつだから、むしろ手の届く選択肢だよな」


「騎士登用試験に落ちたら自動的に冒険者って向きもあるよね」


「自動ってことはないだろ。まぁ、大半その進路だけど」


「じゃあ、落ちこぼれ必至な俺は将来冒険者かな」


「リツは冒険者やめときなよ。体内魔素ゼロでそれは自殺行為だ」


 保身も出来ないってか。否定できないな。

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