15.女子少なめの学校です

 指導のために動き回る先生について回って意外と運動量の多かった見学授業のあとは、昼休みだ。魔術実践の授業は運動着に着替えることもないため、教室に戻らずそのまま食堂に向かった。

 昼食は初、中、大各学院校舎の中にある食堂で無料提供される。学費に予め昼食費用が組み込まれているのだそうだ。

 なので、メニューは毎日日替わりの定食のみ。お盆を手に全員並んで、カウンターから提供される皿を各自取っていき、食後は下膳カウンターに返すシステムになっている。なんだかビジネスホテルの朝食バイキングを想像する。


 今日は久しぶりにたくさんの人と一緒に食卓を囲むことになった。会話しながらの食事は美味しいね。今までも昼食はキャレ先生と同席していたけど、人数多いと安心する学生年齢です。


「で、半日授業受けてみて、どう? やってけそう?」


「うん。授業は問題ない感じ。みんなが助けてくれるから今のところ困ってないし。ありがとうな」


 素直にニコッと笑ってお礼を言えば、いやいやなんの、とみんなして照れだした。イイ人たちだ。


 それにしても、周りを改めて見回して思うことかあった。


「なぁ。女子生徒が少ないのって、何か理由があるのか?」


 実は朝教室に入った時から気になっていた。見た目の感覚からではあるが、女子の姿が2割程度しかいないのだ。3学年一斉に食事を摂る給食制の食堂でも、女子グループはやっぱり2割程度に見える。

 そんな俺の質問自体が不思議だという感じにみんな怪訝そうだから、この世界での常識な部類だっただろうか。


「あぁ、孤児って言ってたな。それじゃ実感ないか」


「貴族女性は女学院の方に行っちまうからな。平民枠で入ってるのは男女半々くらいだが、貴族でここに来ているのは男ばっかりだ」


「デンケル公爵家のマーヤ嬢みたいな例外もいるけどな。貴族でうちに来てる女性陣はみんな武闘派なんだ。学年で5人いたら驚くって話」


 女性には別の学校がある、というのが理由と聞いて、納得だった。

 この学院は王立で国内最高峰教育機関だが、その入学方法は身分によって違う。

 貴族男子は無条件で入学できる。学院大学院教養過程履修済みでないと社交界でバカにされる、という意味で、暗黙の了解的義務教育だ。貴族女子も希望すれば無条件で入学可能だが、王立女学院もあってどちらか選べるという。

 一方、平民は入学可能人数が決まっていて、学力試験によって選ばれれば入学可能というステップを踏む。その可能人数は決して少なくはないが、貴族の優位性があるのもまた事実ということだ。

 なお、クラス分けは純然たる成績順で貴族の優遇もないため、トップのクラスはほぼ平民で揃う。一部有能な貴族子弟も混じるくらいだ。俺が組み込まれたクラスは最下位クラスで、ほとんどが下級貴族だとのことだ。


「つっても、俺らの中じゃ、エイダが子爵家なくらいで、みんな平民だけどな」


「入学できたは良いけど落ちこぼれたグループだよ」


 あはは、と本人たちは陽気に笑っているが、うん、非常に残念な事実だった。

 まぁ、それでも俺よりは断然賢いだろうけど。俺の学力じゃそもそも入学が危ぶまれる。


「いや、案外いけるんじゃね?」


 たった3時間、しかも1時間は見学のみの俺の学生生活から何を悟ることがあったというのか、全然貴族らしくない口調でエイダがそう批評した。その隣でエリアスくんも頷いているのだが。


「何でそうなるんだ。俺、勉強苦手なんだけど?」


「勉強苦手なヤツが校内案内より先に図書館の使い方聞いてきたりしないからな」


 俺の隣からはそうドイトが突っ込んでくる。いや、図書館については魔法使いになる夢への確実なルート調査という理由があったわけで、勉強したかったわけではない。


「普通なら魔法使いなんて夢物語だけど、体内魔素ゼロのリツくんに限っては現実的な打開策だと思うよ。ボク、全面的に応援する」


 反対隣のヘリーくんには超肯定されたし。嬉しいけど、何でさ。


「こうして話してると思うんだ。口数多いわけじゃないのに、反応が的確なんだよ、リツって」


「? 普通じゃない?」


「普通の定義が問題かな」


 普通の定義、なぁ。言いたいことはわかるけど、そんな風に言うほどズレてないと思うんだけどなぁ。

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