14.学生生活は気楽です

 今までずっとキャレ先生かロベルトさんばかりと顔を合わせていたので全く気づいていなかったが、どうやら2人とも学院では有名人らしい。

 ロベルトさんは学院広報の担当責任者ということで露出度が高く、あの端正な顔立ちと耳障りの良い美声に大人の落ち着いた物腰まで合わさって、男女共に憧れの的となっている。ちなみに、アラフォーと聞いて俺も驚いた若作りの、一男一女のパパさんだ。

 キャレ先生はというと、怪我する機会の多い活動的な若者たちで知らない者はいないという、教師陣とは違った意味で大変お世話になっている優しいおじいちゃんな立ち位置だ。

 俺の家名はそのキャレ先生からいただいているので、どんな関係なのか突っ込まれた。そして、孤児なので後見人になってくれたと微妙にねじ曲げた事実を告げたら哀れまれた。まぁ、反感にならないならそれでいいや。


 そんな感じで、会話の端々から俺の正体が滲み出て察せられたあたりで、1時限目の教科担当教諭がやってきて、第1回転校生を囲む会はお開きとなった。

 なお、1時限目は国史の授業なのだが、用意された大学院教養過程までの教科書を一読済みなのでざっと理解済みであり、教師の独演会を楽しむ時間に終始したことをここに記す。学院の教科書超優秀です。


 学期の途中ということもあり、クラス内はすでにいくつかの友だちグループが出来上がっている。そんな中、俺は親切に構ってくれたエリアスくんを中心としたグループに自然と受け入れられていた。時限毎の合間の休み時間はおいでおいでと呼んでくれたし、エリアスくん以外も面倒見の良いメンバーが揃っていて、寮生活のあるあるだったり、食堂の暗黙のルールだったり、生活に便利なアレコレを教えてくれるのだ。教えたがりが多い、とも言う。


 この学院、1時限50分で、午前3時限午後3時限の時間割が組まれている。海外はともかく大陸共通言語のため、外国語という単元はなく、魔術の科目が代わりに入っている。魔術の授業は実践と座学の2単元あり、座学では魔法や魔法陣、魔道具なんかも学習範囲だ。まぁ、魔法については初学院でサラッと習ったあとは大学院まで登場しないわけだが。

 で、本日の3時限目が魔術実践の授業だった。できたばかりの友だちに案内されて向かう先は、初日早朝に見てきたあの器具がたくさん置かれた小さな体育館。魔術実践教室というそのままな名前が付いていた。


 言うまでもなく、俺には受ける意味のない授業だ。それはわかってるしキャレ先生も受けなくても良いと言ってくれたものだが、俺はこれに参加することを決めた。

 だってさ、俺以外はみんな多かれ少なかれ体内魔素を持ってて、魔術が発動できる世界なんだぞ。周りの人間がどういう手順を踏んでどんな魔術を使ってて個人差がどれだけあるか、知っておかないと危険だろ。

 確かに、と周りで納得してくれるから持論に自信もつくというもので。


「あぁ、君が件の転校生だね。実践授業は見学と聞いている。実践中は先生から3歩以内にいるように。他は流れ弾の危険があるからな」


「ぅえ。……はい」


 その危険性は考えてなかったよ。すみません。お手数かけます。

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