13.友だちたくさんできるかな

 10日ほど医務室登校して教科書を読み漁った生活が一段落した頃。

 週末の2日休みを挟んだ週明けから、中学院2年の教室に編入の手続きが完了した、とロベルトさんができたばかりの制服のローブを持ってやってきた。

 ちなみに読み漁ったおかげで字も覚えた。英語などと同じく文字数少なくて記号もないので、文字を覚えるのはほぼ一瞬だった。未だに自分用のメモは日本語だけど。表音文字は覚えてしまえば楽チンである。


 そんなわけで。


「リツといいます。家名はデクトレアです。よろしくお願いします」


 同年代が学ぶ教室に登校することになりました。


 俺を気に入ってくれたキャレ先生が養子にしてくれて、耳慣れない名前も短縮して名乗ることになった。契約魔法を悪用して人権侵害を謀る犯罪が横行した歴史的背景があって、真名を名乗らない文化なのだそうなのだ。キャレ先生も真名はもっと長いそうだから、郷に入って郷に従うことにした感じだ。

 なお、現在の真名は、栗志・高石・デクトレア、となる。


 教室内は俺も見慣れた光景だ。

 生徒の机が総木造であるのが違いとして挙げられるくらいで、生徒それぞれに個別の机と椅子が与えられて、室内に6列5人行列で整然と並んでいる。

 教室前方は一段上がった教壇があって、教師用の演台が置かれ、背後は黒板ならぬ白板がドンと貼ってある。

 異世界に来たというより、外国に留学してきたと思った方がしっくりくる。

 まぁ、魔法や魔術で文化が発展しているあたり異世界なんだけどな。


 俺に与えられた席は、転校生にありがちな一番後ろ。列がキレイに揃っているから、真ん中一番後ろの空席はしっかり目立っていた。


 教師が必要な連絡を終えて出て行くと、1時限目の授業までの休み時間にクラスメイトたちに囲まれるのも、転校生にありがちな展開だ。俺もまた、そのありがちな展開に組み込まれた。


 この学院は、王立で国内最高峰の学術機関だそうで、そのため入学に当たっては試験を受ける必要があり、学力優秀な学生だけが選ばれて学んでいる。そのため、途中からの編入という措置はほぼ有り得ないらしい。

 俺の学力レベルは元の世界でも中の下というモブまっしぐらなもので、間違いなくこのクラス内では最下位だ。なので、学力を認められたのではない特別措置だと理解してもらうため、手の内を晒すことにした。

 なお、キャレ先生ご提案のものなので、対外的に問題ない。耳障りの良し悪しは俺は感知しない。


「実は生まれつき体内魔素量がゼロから伸びなくてね。非常に珍しいってことで研究のために招聘されたんだ。だから、俺自身は全然頭も良くないし良いとこもないんだよ」


 この告白の結果、俺の周りを取り囲んだ人数が半分に減った。

 何かの思惑が裏切られたんだろうけど、そのあからさまな反応の理由が謎だ。正体未確認の転校生相手に何の思惑が発生するというのか。

 首を傾げていたら、そばに残ったクラス委員だというエリアスくんが親切に教えてくれた。背後へ向けた嘲笑付きで。


「この学院に途中編入ならきっと特別優秀なんだろうから、早々にお近付きになっておきたい、ってところだろうね。そんな下心しかない人間関係が将来何かの役に立つのか、僕には甚だ疑問だけど」


 そんな外面だけの友だちはいらないなぁ。できれば気の置けない関係希望だよ、俺は。

 僕もだよ、とエリアスくんは今度こそ爽やかに笑ってくれた。

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