12.学力レベルは年相応です

 グラウンドから人の波が校舎に向かい始めたので俺も移動すると、予定の5分前に医務室に着いた。学院の始業時間はもう少し遅くて8時45分から朝ミーティングなのだそうだ。遅刻するところだった。


 5分前に着いた俺を迎えたキャレ先生は、待たせなくて良かったよ、と笑っていた。先生もついさっき着いたところだそうだ。明日から少し遅くなっても良いと言ってもらったのは、先生自身がもう少し朝ゆっくりしたいからだろうか。

 医務室自体はベッドが並んでいて学習には向かない空間なので、室内にドアが設置されている休憩室を臨時の教室にしてくれたそうだ。ドアを開けておけば急な患者にも十分対応できる、とのこと。

 つまり、俺の担当教諭もキャレ先生が兼任してくれるということだ。本来の仕事もあるだろうに申し訳ない。


「いや、患者がいなければ普段は暇な仕事だからちょうど良いんだよ」


 と、ご本人はのほほんと宣っておられますが。


 用意されていた教科書は、初学院から大学院教養過程までのこの学院で使われている教科書だそうだ。

 国語は言語が違うので論外として。


「学力レベルって、どうやって測ります?」


「言語や歴史は違うのが分かっているから基準にできないし、数学や化学の理解レベルを基準に見たら良いと思うよ。そんなわけで、こんな試験用紙を用意しました」


 はい、と渡されたのは、数学のテスト問題だった。簡単な四則演算から始まって、方程式の計算に図形の面積やら長さやらの算出から微分積分まで。数学苦手なんだけどな。


 計算結果はともかく、問題を解く努力すらできていないのは未学習な単元だとわかるそうで、テストの点数はこの際度外視してくれるそうです。


「うん。数学知識は中学院2年相当だね。年相応だ」


 学びにかける年数が同じだから学ぶスピードも同じなのだろう。と先生が分析して納得している。


 先生が採点している間に、俺は地理の教科書を流し見してみた。

 この世界も地動説をベースに学問が発展していて、丸い星の上に世界が構成されていることが常識として認知されている。なので、世界地図は、球の展開図で描かれていた。見慣れた長方形のメルカトル図法だ。この世界だとマルワイデさんが提唱したそうでマルワイデ図法と呼ばれている。どうでもいい豆知識。

 今いる国は、星の中で北半球にある横長の大陸の、北回帰線よりやや北側に位置する大山脈の南側の麓から海にかけてを領土とする半島の国だ。イタリア北部の地形で気候はエジプトあたりに合致する。

 星内に砂漠はあまりなくて、人の住んでいない土地はだいたいが大森林らしい。それと、南北は寒さが厳しいらしく、もしかして地球よりも太陽が遠いのかもしれない。

 現在地はそういう土地に置かれた王政国家で、エリアイナ王国という国の王都郊外になる。国の人口は300万人ほど。大山脈から流れてくるいくつかの川で土壌も肥沃な、周辺国家の中でも農業に特化した食料庫だ。農作物を輸出して工業製品を輸入する国家経営をされている。

 王都は山脈を背にした天然の要害で、人口の増加に合わせて南に向かって広がったつくりをしている。学院は北西部にあって、山脈に続く森の出口を塞ぐ形で展開していた。朝に見た管理森林エリアというのがその森なのだろう。

 大陸の他の土地へ行くには山脈を大きく迂回する必要のある立地で、国自体が山脈に守られて発展した国なのだろうと推測は容易だった。

 海側は伊豆半島や紀伊半島のような半島がつながっていて、広大な大洋に面している。半島の根元には温泉も湧いているとのこと。行ってみたいですな。


 俺が教科書を読んでいるのをしばらく観察していたキャレ先生だったが、自己学習が十分できると判断したのか、いつの間にかいなくなっていた。

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