11.まずは環境を把握します

 食事は全体的にあっさりした味付けの南欧料理風で、昼食はレストランで夕食は寮の食堂で、この国の家庭料理をメインとした定食をご馳走になった。薄焼きパンかパスタとコンソメ味の野菜スープと焼いた肉や魚、というのがベースらしい。

 ロベルトさんはけっこうな世話焼きで、すぐにはいらないと思って手を出さなかったようなものまで、生活に必要と思われるものは一通り揃ってしまった。モノの値段も買い物を通じてだいたい把握できたし、それを勘案してもだいぶ買いすぎだと思うわけだが、この出費は生活費とは別なのだから遠慮なく使えばいいと唆されたし。1日付き合ってもらって思ったが、人当たりの良い外見に似合わずなかなかどうしてイイ性格してる。


 買ってきた服は全部洗濯してテラスで夜通し乾かされているので、夜は持ち合わせていた体操服とジャージで寝た。朝には乾いているとロベルトさんが太鼓判を捺していたが、本当に乾いたし。

 東向きのベランダで朝日で温められてホカホカの服に袖を通し、部屋のキッチンで朝食の準備から始めよう。

 学院は上から羽織るローブだけが学院指定で、他の服は公序良俗に反しない範囲で自由だそうだ。その分、昨日買った私服は数が多い。衣服の文化は全然違くて、ロベルトさんに全身コーディネートされた上で着こなしレクチャーまでされた。今日の服装はそのレクチャー通りにする。


 昨日も思ったが、気温はだいぶオシャレを楽しめる過ごしやすい温度で、安定して秋晴れという印象だ。重ね着しても暑くならないし、薄着でいても風邪をひくほどではない。

 なので、食事も温かいメニューで準備して問題ない。買ってきたパンにインスタントスープにウインナーと卵を焼いて、生でいける野菜をざっくり切ってサラダにすればオッケーだ。

 野菜にウインナーに卵をパンに挟んで食べながら、リビングの壁にかかった時計を見上げる。1日24時間の60進法で、現在時刻7時半。登校は8時半だから余裕はある。


 食後にフルーツジュースを飲み干して、皿を洗って片付ければ出かける準備完了。まだ行っていない道から学内を散歩しつつ登校するとしよう。


 ショッピングモールは昨日行ったし、管理棟も昨日行ったし今日の登校先だし。行くべきは運動施設のほうだな。

 寮から管理棟に向かう途中で分かれていく道に進むと、広いグラウンドに出た。サッカーコートが2つ取れそう。グラウンドでは朝練らしく若人たちが走り回っている。こっちのスポーツはまったく分からないから、その辺の常識収集が先ということで観察はパス。

 その外周を遊歩道が巡っているから、道に沿って向こうに見えている体育館へ向かう。

 途中でジョギング中の一団とすれ違った。運動着は大して変わらないようだ。ジャージでも大丈夫かも。


 体育館はいくつかあった。スポーツのためのものと、魔術訓練用に器具が用意された建物、それに昨日召喚された場所に似た道場っぽい部屋がいくつか並んだ建物。

 全て屋根のついた渡り廊下で結ばれているので、雨天でも移動に支障がない。逆に考えると、屋根が必要と思われる程には雨が降る気候なのだろう。

 体育館や他の建物からもそれぞれに人の声や靴の鳴る音に走り回る音などが聞こえていて、こちらも朝練と思われる。


 建物群を抜けてさらに先へ進むと、もっさりと生い茂った森が前面に広がった。この先が管理森林エリアというやつか。境界を背の高い柵が仕切っていて、入り口には鉄格子の観音開きの扉がついている。なんだか物々しい。


「その先は許可が無いと立ち入り禁止だよ。間引きしてるとはいえ、魔物が出るからね」


「え?」


 声をかけられて振り返ったら、同年代っぽい金髪の好青年が運動服姿で爽やかに笑顔をくれていた。


「中学院受験の下見かな? 良い学校だから気に入ってもらえると嬉しいね」


「あ、ありがとうございます」


 一応お礼を言っておいたけど、どうやら中学院に入学済みの年齢には見えなかったようで。乾いた笑いしか出なかった。

 そんなに幼く見えますか。


 ってか、この世界、こんなに人間向きに開発されてる都市なのに、魔物いるのね。

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