9.はじめての独り暮らしです
案内されたのは、研究員用だという独身寮だった。
この学院は、日本でいうところの大学付属中高一貫校という大きな学校施設で、10歳から15歳までが初学院、16歳から18歳までが中学院、19歳以上が大学院に通っている。年齢毎の学習内容基準は大体日本の学校制度と同じだ。
初学院の前には地元の基礎学校というところで読み書き計算と簡単な政治経済を習うらしい。こちらは幼稚園から小学校の低学年相当だろう。
俺がこの学院にいられるのは、大学院の教養課程卒業相当判定までとのことで、順当に年齢通り進めれば20歳には卒業できるそうだ。で、色々特別待遇もあるので、中学院寮ではなく、日本でいうところの院生が住んでいるような社会人向けの寮に住まわせてくれるらしい。編入される学年が決まればその学年の寮に移っても良いんだそうだけど、引っ越しも面倒だし全寮制でもないのだし、このままで良いと思う。
そんなわけで、以後数年の我が家にご対面。
「おー。広い」
間取りは1LDK風呂トイレ別、家具家電付き。部屋はそれぞれ10畳超だから、一見しただけでも広い。元の世界でうちの家族は2LDKのマンション住まいだけど、広さだけ比較したらこっちの方が広いかも。
玄関入ってすぐに見えるのが台所とリビング。台所の向かいに風呂洗面所トイレがまとめられていて、リビングからドア1枚隔てて個室になっている。個室内には大きなベッドと事務机が置かれていて、ウォークインなクローゼット付きだ。
部屋の中は土足の往来なので、後で床中拭き掃除して裸足生活環境を整えたいと思う。
案内してくれた院長秘書だというロベルトさんが、リビングのローテーブルに飲み物を出してくれて、部屋中探検していた俺を呼び止めた。
「必要な家具類は一式揃っていますが、食料品や衣類は買い揃えていただく必要があります。今日これから私が買い物にお付き合いしますので、必要な物を確認してください。それとは別に、こちらは今月の生活費です。来月以降は銀行振込になります。後日口座をご用意してご連絡します」
生活準備金は生活費とは別支給ってことか。あれこれ揃えると高くつくだろうし、助かる。
責任を取ってくれるとはいえ、学院自体の過失ではないのに、細かいところまで補償が手厚いのは好印象ですな。誘拐された身で言うのもなんだけど、異世界転移先としては当たりだったと思う。
ただ暮らすだけなら十分な設備が整った室内を巡って、今日明日で必要な最低限を洗い出す。
台所はシステムキッチンがあるだけで、食材はもちろん調味料に皿やカトラリー類も軒並み無かったので、必要なものは全て購入対象だ。グラスがひとつポツンと置かれていて、ティーカップは現在リビングにある。
洗面所も大物があるだけで洗剤類やタオルもない。洗面道具も一揃え必要らしい。
風呂には猫足のバスタブが置かれていてホースのシャワーが付いているから普段通りのバスタイムをエンジョイできそう。
トイレも座るタイプの水洗で、見慣れたロールタイプのトイレットペーパーが設置されている。便座に触れたら温かかった。
世界が変わっても便利で快適な住空間というのは同じ道のりを辿るらしい。
ベッドには布団も完備なので着替えだけあれば良さそうだ。
一通り回ってロベルトさんのもとに戻ると、そのまま買い物に連れ出された。
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