6.チートは努力が必要です

「はい、ふーっ」


 先生の掛け声に合わせて息を吐く。


「……おや?」


 いや、先生。不安になる反応やめてください。

 首を傾げた先生に手を差し出されて機械を返すと、先生もそれをふーっとやりだした。で。


「うん、壊れてないね。うーん、そうか」


「残念なお知らせですか?」


「申し訳ないけどその通りだね。リツシ君、魔力ゼロだ。チキュウというところは多分魔素がそもそもないんだろうね。だから、魔素を蓄える機能がリツシ君の身体に備わってないと思われる。この世界の人間は多かれ少なかれはあれど魔素を蓄える機能を持ってるものだから、この測定結果は初めて見るよ」


 投影機の結果がノイズだらけだったのもこれが原因だったんだね、とのこと。前兆はあったらしい。

 そのノイズだらけのスキャン結果で発作になってない小さな気管の炎症を見分けるとは、機器の精度がスゴいのか、先生の目が優秀なのか。


「まぁ、魔素ゼロの世界から来たばかりで身体が適応している真っ最中という可能性もあるし、しばらくは定期的に測定してみたら良いと思うよ。学院に残るなら私の方で声をかけるようにしようか」


「お願いします」


 ところで。

 誰にでもある体内魔素がゼロであることで、俺に何か不利益は無いんだろうか。


「まず大きな問題として、体内魔素がスイッチになる魔道具が使えない。まぁ、これは魔石で代用できるから金で解決できる問題だね。それと、魔術が使えない。これは平民の大多数にあたる体内魔素量の少な目な体質の人間がみんな同条件だから、珍しいことではないよ。結論として、職業選択の幅が少し狭まって、必要な生活費が少し増えるということだ」


「致命的な問題ではないんですね」


「そうだね」


 そうは言っても、金が余計にかかるというのは生きにくさにはなるけどな。

 さしあたり、大魔術師の未来は消えた、というのが結論か。

 チート、欲しかったな。


「ガッカリしてるね」


「魔法の、じゃないか、魔術のある世界にせっかく来たのに使えないって、大きなガッカリ要素ですよ」


「魔法は、諦めなくて良いよ?」


 ん?


「え。魔法じゃないって、さっき」


「うん。治癒術は魔術だからね。魔術とは別に、魔法というものも存在はするんだ。ただ、扱いが非常に難しくてね。魔法使いは世界に数えるほどしか認定されていない」


「どう違うんですか?」


「一番の違いは、使う魔素の出所だね。魔術は体内魔素を使う。だから、その発生現象の規模は術者の体内魔素量に依存する。一方、魔法は世界に漂う外部魔素を使う。そのため発動が非常に難しい。空気中に漂う魔素を捕まえるなんて、言うは易し、ってものだ。そのかわり、発動さえ出来れば発生現象の規模は自由自在だろうね。燃料はほぼ無限なんだから」


 なるほど、一長一短。なんというか、マニュアルかプリセットか、みたいな説明を聞いているようだった。

 つまり、俺はプリセットを使える専用燃料が無いからマニュアル一択だというわけだ。スタートがゼロだから、努力してもゼロのままか、上手く進んで無限大を手に入れるか。

 チートは無かったけど、努力次第で似否チートを得ることはできる、と。まぁ、土俵はこの世界の大多数のみなさんと同じなわけだが。魔術に時間を費やす必要が無い、というのがせめてもの俺のアドバンテージかな。

 スタートが16年遅れな分、取り返せてるかすら不明ではあるけど。

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