第二十八話 決意
ラザスは、まだ未熟ながらも自分の中の考えをしっかり伝えてきたクラルスに対して、怒りを治める
「・・・・・・まぁ、よしとするか。まだまだ未熟な部分が多々、見受けられるが合格としよう。全く。どうしてこう、フィーリオ家の血の気が多いものは皆して前線を好むのか。守る騎士の身になってもらいたいものだ・・・・・・ゼノ、良い主を見つけれたようじゃの」
「まぁ、俺が選んだ人だから」
ラザスの怒気は収まり、そこには優しい子供好きな年長者が笑みを浮かべた姿があった。
「まぁ、死ぬ時は、道連れは勘弁願いたいね」
そう言った瞬間にゼノの足に横から鋭い蹴りが入る。
「私が死ぬことはない。・・・・・・お前もな」
クラルスはふん、と少し怒ったように鼻を鳴らすも、その表情はどこか清々しさを感じさせる。
そのやり取りを見ていたラザスは机を叩く。それは思わず笑ってしまって。
「ハッハッハッ。そうかそうか」
一気に張り詰めた空気が暖かいものに変わってゆく。
「よかろう、お主らのことは私が認めよう。陛下には・・・・・・まだ言わないほうがいいだろうのう。あの御方はクラルス姫を溺愛《できあい
》しておられる。盟約を交わしたことは誰にも言わんようにな。混乱を生みかねん。ペアについてもワシから通しておく。ペアの発表があるまでは大人しくしておくように」
「「ありがとうございます」」
ゼノとクラルスは頭を下げる。
だが、ふと今のラザスのセリフの中に不穏な気配を感じたのだ。ラザスからではないが、何かラザスの言葉をお通して何か不安にさせられるような思いに駆られるが、頭を下げ、次に頭を上げてラザスとクラルスを視界に納めた時には既にそのお気持ちは消え去っていた。
「クラルス姫、こんな馬鹿でも私の大事な息子だ。どうかうちの馬鹿息子を頼む」
次は、ラザスがゆっくりとクラルスに頭を下げた。
ゼノはなんだか恥ずかしく感じるのだった。
「ええ。ご安心してくださって大丈夫です。一生私が面倒を見ますので」
「それじゃ、まるで俺がペット・・・・・・」
「あー。それとのう。クラルス姫よ。一つだけ」
再び、真剣な顔つきでラザスがクラルスに声をかける。それは、先ほどのような重々しいものではないが、真面目な話なのは分かる。
「はい、何でしょうか?」
「腰の剣に関しては所持を本日までは許したが、それが完全なる形になった今、すまぬが王城に、国王陛下へ返還しなさい」
「・・・・・・はい。最初からそのつもりでございます。私の目的も無事果たせましたので」
「うむ」
ゼノはそのやり取りから、意外にも一番ラザスがクラルスに伝えたかったのはそのことなのではないかと思った。既に、彼女が持つ剣は不思議な魅力を持つ鞘だけではない。剣が収まることにより、嘗ての、いや本来の輝きを取り戻したそれは、誰が見ても分かるだろう。
なぜなら、おそらくこの世界で一番有名な聖剣なのだから。
「……なら、もう下がってよいぞ」
ゼノとクラルスはラザスに一礼し、静かに校長室の扉を開けて出て行く。ゼノが出て行く瞬間に、ラザスと目が合うーー。
(ああ、わかっているさ)
ゼノは校長室の扉を閉める。
外では彼より先に出ていたクラルスが腕を組んで待っていた。
「さぁ、行くぞ」
彼女は組んでいた腕を解くと、すぐさま歩き始める。相変わらずの美しい姿勢だ。彼女自身が女性にしては長身であり、尚且つ武を治めていることから引き締められた体つきの中に強調される女性らしさ。
「ああ……」
ゼノはクラルスの後ろをついてく。クラルスのやや後ろを彼が静かに後ろについていると、クラルスが口を開く。
「秘密は無しにしてもらいたいな」
秘密というのは、きっとラザスが養父であったということなのだろう。家名が同じでも、伝説の騎士の息子がまさかこんな落ちこぼれだとは誰も思いもしないだろう。
だからこそ、今まで誰にも気づかれなかったのだから。敢えてゼノが家名を出さないようにしていた。教師達にも家名ではなく、落ちこぼれのゼノということから名である「ゼノ」で呼ぶようにお願いもしていた。まぁ、そこには教師たちも彼の家名を呼び捨てで呼ぶには遠慮したい気持ちがあったのかもしれない。
ゼノは、少し決め顔をクラルスに向ける。
「秘密がある男は魅力的だろ?」
「私たちの盟約の中に秘密は無しとあったはずだ。次はないと思うことだな」
ふん、と彼女は鼻で笑うとそれ以上は何も聞いてこなかった。今回は見逃すが、秘密がまだあれば自分から話せということなのだろう。
クラルスは一言付け足す。
「歩くときは私の隣を歩け」
ゼノは、その言葉を聞いたとき、さきほど校長室でラザスに向かって彼女が言っていた言葉を思い出す。
ゼノは、つい口から笑みがこぼれた。これほどの美女に、これほど自分が想っている相手に、ああも言われてしまっては、と。言われたとおり、ゼノはクラルスの横へと並ぶ。
隣について歩くと、女と男の差なのか、足の長さの差なのか、一歩の歩幅がゼノのほうが大きい。
いや、思ったよりクラルスが小さいかった。早く歩いてるせいで、あまり歩幅を見ていなかったのだ。こうしてみると、クラルスも女の子なんだとゼノは改めて思う。
二人だけが歩いている廊下で静かなのも気まずく、ゼノは何か、と口を開く。
「し、しかし、さっきのジジィの問いへの答え方はまるで夫婦のような答えだったなぁ『死ぬまで、二人は一緒です!』みたいなさ。笑えるよ」
ゼノがそういって笑うと、ふと、クラルスの足が止まり、ゼノは少し前に進んでから止まり、後ろを振り返る。
「おい。人が必死に考えた応えをお前は馬鹿にするというのか?」
「え? あー。いや、それは。冗談だよッ!」
何かやばい。何か地雷を踏んでしまったとゼノは気づいたが、もう遅い。
「お前は私の騎士だ。ならば、今お前が最も敬わなくてはいけない存在は、神でも王でもおじ様でもなく、この私だ。お前の神である私を馬鹿にしたな?」
クラルスの両手がグーとパーを繰り返し、準備運動を始める。
「お、落ち着こう。冷静に、な? それに、気が短い女ってのはモテな――」
・・・・・・ぁ。
ゼノが気づいた時には、すでに眼前にクラルスの鉄拳制裁が迫っていたのだった。
「躾(しつけ)だ」
ゼノは避けることもできずにクラルスの鉄拳制裁を受けるーーはずだったのだが、拳に込められた力は軽く、彼の額にコツンッと可愛らしく当たる。
クラルスの方を見ると、そこには微笑みを浮かべたクラルスが居た。
「さて、これで貴様と私は正式にペア、いや騎士と主というわけだ。励めよ、我が騎士よ」
そういいながら嬉しそうにクラルスは再び歩みを進め、ゼノの横を通り過ぎる。ゼノは先ほどのクラルスの表情に一瞬呆けていたが、すぐさま意識を取り戻して、彼女の隣につく。
「はい、我があるじさま」
ここが、ここからがゼノの、彼の第二の人生の始まりと言えるだろう。これから、彼女と一緒に歩むことで彼の人生は大きく変わるだろう。
俺は、彼女の騎士になったことを後悔するだろうか。
俺を騎士にしたことを彼女は後悔するだろうか。
しないとも、させないとも。決して。
(俺は、今よりも、ずっと強くならないといけない)
ゼノは、一度枯れた心に決意という灯をともす。
だが、果たしてその覚悟は実りをもたらすのだろうか。彼の思い描く通りになるのだろうか。何故なら彼は、このアルビオン一の落ちこぼれ。その現実は、事実は変わりはしない。
*************
呪われし邪神の島
嘗てその島は、最恐最悪の最後の邪神が封印されていた島。
神々が島に縛り付け、尚且つ邪神の力を削ぐ為にあらゆる弱体化を用いた呪い、封印を用いた。確かに効果はあったのだろうが、それでもなお邪神は最強であった。
そう、ウィルウェニス・アルブ・オルグランドによって葬られるまで。
神々は、今なおあの島には良い思いを持ってはいない。何故なら、あそこには自分たちが施したにもかかわらず、強力すぎるあまりに解呪することも叶わない。神自身んも強力な力を持っているがゆえに反発してしてしまい近づけない。
――神の力が及ばぬ完全なる呪われた島と
第一章 アルビオン校編―姫と騎士の契り― 終 ―
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