第二十六話 最強の騎士Ⅱ
「ラザスおじ様は私が小さい頃からお世話になっている御方なのだ。剣もラザスおじ様より習っていた。私の師であり、二人目の父の様な方だ」
クラルスは少し誇らしそうに言う。 その言葉を目の前にラザスが少し微笑えむ。
ラザスは国の騎士であり、国王の騎士でもある。国王の娘であるクラルスがラザスと親しくてもなんら可笑しいことはない。
というよりも、ゼノからすれば「やはり」と納得するものだった。
――旧教会で見せたクラルスの戦い方、その体捌きはどこかラザスの戦い方に通ずるものがあった為だ。
騎士王の一族にして、最強の騎士の教え子であるならば、確かにあの強さは納得がいくものだった。いや、実際の戦場、戦いとなれば更なる輝きを見せるだろう。
「いやぁ、父だなんてうれしい事を言ってくれるのう。それにくらべて・・・・・・この馬鹿タレは! 最初からジジィとしかワシのことを呼ばんのじゃから!」
「怒鳴ってると頭に血が上って倒れるぞクソジジィ」
「誰のせいじゃこの馬鹿タレ! その様なことで、倒れるわけなかろうが! 現役バリバリじゃわ!」
そういってゼノを睨むラザスだが、ラザスの怒りを含まない目線をさらり受け流す。
◆
「適当な話はもういい・・・・・・それで、呼び出したのは昨日のことなんだろ?」
ゼノは話を切り替えるため、本題に入ることにした。ラザスは彼の言葉に、黙って頷く。
「・・・・・・二人共、昨日は派手に暴れたようじゃな」
昨日のこと――というのはつまり、旧教会でのこと。
ラザスはゼノ達に手元から紙のようなものを何枚か手に取って机の上に彼らに見せつけるかのように広げる。
遠目でその紙を見れば、細かい文章が書かれている。おそらくは、昨日の件についての報告書なのだろう。結局あの後、無事やり過ごせたと思った二人だが、ラザスにはバレていたようで、こうして校長室に呼ばれたというわけだ。
報告書があることを考えれば、ラザスによって情報統制されていると見るべき・・・・・いや、そうしているに違いない。
「申し訳ございません」
クラルスは頭を下げて謝った。これに対して、ラザスは軽く手を振って笑う。
「反省し、以後気をつけよ。もう昨日の件はこちらで片付けておいた。誰にとっても悪くないようにしといたからの、処分は無しじゃ」
すでに手は打っているようだ。流石というべきだろう。
名門のアルビオン聖騎士学校では生徒が乱闘しています……。などという事実はあってはならない。起こってはならない。
また、生徒達の中でも不安な情報は流したくないだろう。まぁ、生徒に関してはいずれ広がるだろうが。だが、
――ラザスの性格にしては優しすぎる気がする。
とゼノは感じていた。厳格な彼がこうもあっさりと許してくれるとは、今までの付き合いからゼノはどこか違和感を感じていた。
「ありがとうございます。ラザスおじ様」
クラルスがあらためて頭を下げる。
素直な彼女の態度を横目に見つつ、ゼノはラザスを訝しむ。
「……やけに優しいんじゃないか」
「ふん、お前はおまけじゃ。先ほど話したとおり、クラルス姫を小さいときから知っておる。それに、クラルス姫の父君、国王陛下とは古くからの友であり
ため息をこぼし、やれやれといった様子である。ラザスは彼なりに、二人を思って動いてくれていたようだ。しかし、彼の言葉に若干の引っ掛かりを覚えたが、その意味が分からなかったし、ここまで一向にラザスの考えが見えてこなかった。
そんなことをいちいち言うためにわざわざ俺たちを呼び出したのか? と。
(いや、ないな)
まだ、ゼノの勘が終わりではないと言っている。
ラザスが身内であるゼノを個人的に呼んだり、問題児を呼び出し説教をするというのはわかる。また愛弟子であり、王女であるクラルスを個人的に呼び出すのもあり得ることだろう。
だが、なぜクラルスとゼノという傍から見ればおかしな組み合わせで呼び出したのか。二人ともラザスにとっては共通の知り合いであるから、たまたま紹介しようとした?
――そんなはずがない。
何故なら、普通に考えて、Fランクセカンド最低のゼノとSランクファースト最高のクラルスの二人の組み合わせはこの実力主義の学校においては余りにも可笑しい組み合わせ。そもそも、ラザスはゼノ達が知り合っていることを不思議がらない上、疑問にも感じていない様子だ。
――二人一緒に呼び出した
ゼノは気づいた。ラザスがなぜ自分達を呼び出した本当の意味に。
――しまった。来るべきじゃなかった。
「・・・・・・なあ、俺達を呼び出したのはそれだけじゃないんだろう?」
ゼノがそういうと、ラザスの優しい目つきが鋭いものへと変わる。同時に、クラルスは下げていた頭を少し上げ、困惑気味にラザスとゼノを交互に目線を走らせる。
(やっぱり、本題はこっちか)
ラザスは手を組み直す。その時に左手の義手がカシャッと音を立てる。その音がまるで合図かのように目に見えてラザスの纏う雰囲気が変わった。
「お主ら――――盟約を交わしたな?」
――ゾワッ
一瞬で校長室の気温が下がったかと思うほどのオーラ。先ほどまでの優しい壮年の男性という雰囲気のラザスではない。
そこには、規律を重んじる、校長として、この国の騎士団長としての姿があった。
ゼノは冷汗をかくと同時に、何故バレたのかが気になって仕方がなかった。確かに、このアルビオンでただのいち学生の自分たちにできる隠蔽策などなく、人手が少ない時間帯を避け、さらには人目に付きにくい場所。だが、ロマンティックな雰囲気は欲しかっただろうクラルス的には教会が一番ふさわしい場所だった。どうして気付かれた。あんな誰も来ない早朝に、学校の、それも教会にまでつけられていた?
いや、そもそも自分が何かを見落としている気がする。
――相手は、一国の王女。
そう。クラルスは、クラルス・アル・フィーリオは王族だ。自分の国、自分の領土、庭だからと言って護衛が一人もいないのはあり得ない。
ッチ。
――隠密に長けた護衛が居るに違いない
ゼノはおまわず、額を右手で押さえる。
余りにも、自分が滑稽だからだ。
クラルスが自分の護衛に気づかないはずがない。ならば、ここまでの流れは全て彼女の手のひらの上ということになる。
そもそも、自分の常識が欠けていた。本来の自分にとって、彼女は、クラルスは、雲の上の人。王族ということを。
ゼノは今の状況を諦め、素直にラザスの説教を受け入れることにした。
「どうして気付いたのか、と思ったじゃろうが、まぁ、何。昔から常に見ている二人のことだからな、少し気配がかわったことで気づいた。盟約を結んだ主と騎士は気配が混じり合う。これは、敵の騎士を相手にするのではなく主を探し出してそちらを抑えるための戦いの技術と言ってもよいが。まぁ、こればかりは年と経験を重ねない限り身につかんものだ。普通であれば周りに気づかれることもなく、隠し通せるだろう」
だが・・・・・・、とラザスは言葉を続ける。
「いま、お主らがすべきことはペア決めだ。ペアとは学生であるお前たちのために、経験をつませるための“仮の盟約”として行っているものだ。お主らがおこなった盟約は仮などではない。お主らが結んだ盟約がいったいどういうもので、どういう意味を持つものなのか・・・・・・わかって、おるのだろうな?」
その最後の言葉に乗せられた威圧は、話の流れから覚悟を決め始めたゼノとクラルスをあらためて畏縮させるものだった。
**************
王族。
彼らは絶対的な権力を持つ。人々によって選ばれた先導者、君主が王となり、そして王が認める者達が王族となる。
つまり王族とは、現王と、そして君主制を用いる国と法律によって認められている存在。しかし、彼らが法律によって守られているからと言って、法律を守る必要はない。王に感謝こそすれ、敬う必要はない。
彼らは、生まれた時から王族であり人ではない。人でありながら人ではない。人を超えてはいないのに、人を超える。人を支配する。
目に見えない力が目にできる程に、彼らの持つ力というのは凄まじい。
だが、その代償は余りにも・・・・・・余りにも大きい。それに気づき、認め、仮初でも平和を、善政をしけたのであれば、それは名君なのではないだろうか。
――いや、まともだからこそ、暴君となってしまうのだろうか。【まとも?誰が、ナニをまtoモであると証明できるのだ』
彼らは平民やいち貴族ではない。
王族なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます