第十五話 落ちこぼれ
「その間抜けな面。君ぃ……落ちこぼれのゼノ君、だよねぇ?」
ゼノの正体を最初に気づいたのは思いの他、下の者には興味がないと言わんばかりの典型的な貴族の坊ちゃまことレドモ・エイヒスだった。
――知っている奴がいたか。これは困った。
「そういう貴方は?」
ゼノはとりあえず、動揺した様子を見せないよう、そのまま平坦な声音で聞き返す。
「あぁ、自己紹介が遅れたね。僕は、Aランクセカンドのレドモ・エイヒスと言うんだ。以後お見知りおきを・・・・・・落ちこぼれのゼノくん?」
彼はそうAランクという場所を強調し、馬鹿にしたような笑みを浮かべながらゼノに対して丁寧にお辞儀をする。
「へぇ・・・・・・知らない間に僕も有名になったなぁ・・・・・・はぁ」
ゼノの正体がわかるとセカンド達の態度が変わる。その表情には馬鹿にしたような、自分より格下を見下すかのような、いや、先ほどまでのそれとは打って変わって、虫やごみを見るかのような、そんな目になる。
そしてもちろんのこと、そこには嘲笑が混じる。
「ゼノ?」
「あれだよ、セカンド最下位の……」
「Fランクさ」
「「「「「ギャハハハハハ」」」」」
セカンド達はゼノを指差し、腹を抱えながら笑う。どうやら全員、噂は聞いていたようだ。強気に出るのは無駄とわかったゼノは肩から力を抜く。
「……どうも」
ひとしきり笑った彼らは、ゼノにあらためて向き直る。その目は完全に彼を見下したものだ。いや、道化に向けられた目というべきか。
――何か面白いことしてみろよ
脳裏に浮かぶ昔の記憶に思わず吐き気がする。
(っち)
「お前さっき何ていったかなぁ?確か、同じセカンドとして、騎士を目指すものとしてお前たちがしていることは間違っている、だったか?」
「「「ギャハハハハハ!!!」」」
男たちはまた腹を抱えて大笑いをしだす。
(ですよね!僕が騎士とか笑えますよね!とか言って一緒に笑ってやろうかこの野郎共)などとゼノは心の中で悪態をつく。
「同じセカンドとしてだぁ?同じにしてんじゃねぇよ!」
「お前が騎士になれるわけないだろ。学校やめちまえ!」
「落ちこぼれになにができるんだ?ハッ……まさか女の前でカッコつけたいとか?」
(あながち間違っちゃあいないのが腹立つなぁ)
などとゼノは思いながら、むしろ後ろのクラルスさんのほうが全然イケメンなのではなかろうかと思っている。いや、彼女のほうがかっこいい。うん。
「散々好き放題言って・・・・・・無駄な時間をとらせてくれたねぇ。私はAランク。そこの彼を合わせてAランクが2人。そしてまたここにいる僕以外のセカンドもBランクばかり。君は落ちこぼれのFランク。ふははっ!どうあがいても君が敵うわけがないじゃないかぁっ!」
エイヒスは皮肉をたっぷり込めた笑顔で、そうゼノに言い放つ。
(ああ、無理だね)
FランクがBやAランクに敵うわけがない。ましてや、その下のCでもDでも負けるだろう。でも、勝てない相手の前にノコノコと姿を現すわけが無い。ゼノには、目の前のセカンド達に勝てる方法がある。
おそらく、この場において最弱たるゼノが勝率をゼロと、百パーセント負けると百人中百人が答えるだろうこの戦いをひっくり返す方法が。
――出たとこ勝負ではあるが。
今のゼノでは勝てない。このアルビオンに来てから落ちこぼれと化した彼には。だが、条件が揃えば勝てる。ゼノは包みの十字架の形をした棒状を握りしめる。
――俺達に一度たりとも敗北はない。そうだろ?相棒。
ゼノは、左足を後ろに引き、右半身になり右手で剣を構え、剣先をエイヒスへと突き出す。彼自身もまた敵うわけがない相手に言い放つ。それは決闘の構え。それは、挑戦状。あからさまな、騎士への挑発。
「やってみなきゃ、わからないぜ?Aランク様」
とびっきりの笑顔で。だけど、目元が見えないから、口が裂けそうな程の笑みを浮かべる不気味な男でしかなかいその表情は、エイヒス、セカンド達へ動揺を生んだ。
(やっべ、腕と顎つりそう)
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