第十話 SランクファーストⅡ
……残り十人。
呆気にとられており、冷静に状況を飲み込めないでいたセカンド達。四人の犠牲のおかげでクラルスをぐるりと取り囲む陣形まで組めたが、彼女の足元に転がるセカンドの身体の邪魔もあり、彼らには次の手が全く思い浮かばなかった。
喉を抑えたまま動けぬ男を押しのけ、何とか二人のセカンドも復帰するが、その有様があまりにもみっともなく、さらには四人が簡単にやられたことに驚き焦り、イラついたエイヒスが叫ぶ。
「おい! 何をしている! 取り押さえられればどんな手段を使ってもいい!」
「し、しかし。相手は王女で……」
「今更、ぐだぐだ言うな! ここまでやったんだ。どのみちその女が口外それば終わりだ! 結果を出してから文句を言え! 武器でもアビリティでも、使い魔でもなんでも使え! とにかく捕まえろ!」
どなるエイヒスの声で、再びセカンド達は集中する。
「は、はい!」
「・・・・・あれ? エイヒス様ッ、アビリティが使えません!」
返事をするセカンド達に交じり一人がそう叫んだ。
「何を・・・・・・?わ、私も発動しない! どういうことだ!」
「おや、知らないのか? この旧教会という場所はアビリティが使えないという特殊な場所なのだ。知らなかったのか? 知っていて私をここに呼び出したのだと思ったのだがな」
クラルスは狼狽えるセカンド達を見て、毛先をややいじりながらそう説明した。
アビリティとは、人間が生まれ持った一つの才能、特殊能力を指すのだが、全て解明されているわけではないもので、神が人間に与えた祝福、奇跡と呼ばれるものだ。
「ッチィ! まだ他にも手段はある。おい! いつまで動揺している! アビリティ以外を使えばいい!」
「はい!」
男たちはついには剣を抜き構え、中には使い魔の召喚準備をしている者もいる。クラルスは冷静に服装を正しながら、呼吸を整えエイヒスたちの会話を聞く。
ほう、まだ二年生で授ですら行われていないのに使い魔と契約しているとは、我が国の学校の生徒としては鼻が高いが・・・・・・少々はしゃぎすぎるな。
クラルスは剣を構えた一人に声をかける。
「剣を抜いたからには……わかっているのだろうな? 使い魔も同じだ。無許可の召喚は校則違反だぞ? いや、この場合は他国から学校の生徒として来ている君達は最悪国家反逆罪から始まり国家に対する敵対行動、暗殺行為、スパイ活動、王族暗殺未遂かな? 複数の容疑・また法を破ることになる。この意味が分かるか? 大罪だぞ」
「うっ、うるさいっ! お前が大人しく捕まればいいんだ! お前が大人しくなれば!」
男子生徒は剣を私に向ける。校内で生徒による無許可の戦闘や召喚、または剣の抜刀は特例を除き校則で禁止されている。これは、校内だけではない。常識的に考えて街中でも剣を抜くことは余程の理由がない限り許されないは当たり前だ。
唯一、許されるのは、国の平和を守るための騎士や兵士のみであり、または平時とは違い緊急時においてのみ、冒険者や騎士見習い以下の民間人にも武器の使用が許可される。
破れば罰が待っている。ここが校内ということもあり国の中でもこの学校校則内における罰で収まるが、謹慎か体罰か退学か……。
「ほう……君は私を傷つけるのか?」
クラルスはあえて一人の男子生徒の剣先へ近づく。構えた剣先が震えている。所詮、学校で習ったことしかできない。人を斬る勇気などないだろう。彼女は、王族として剣術も体術もある程度は習っている。
彼等の半分が剣を構える者として腰が引けているのはわかっていた。まだ、迷っている者も居るのだろう。
「お、大人しくしろ!」
「残念だが……私は誰かに従うというのは嫌いでね」
そのまま剣を持った方の手首を叩き、剣を落とさせるとそのままみぞおちに一発入れる。もはや、少し
それは、セカンド。騎士を目指す者。強さを求める者の動き。
いや、クラルスのその動きはもはや
だが、今彼女を相手にしているも者で彼女の実力を理解できるものは居ない。自分達と彼女との間にある差を。
「ッガハ!?」
これで残り九人。
その一連の流れ、一方的な蹂躙にも近い圧倒的な美しさと力を見せ付ける彼女はまさに戦乙女、とでも言うのだろうか。
余りにも早すぎて常人では何をしたかわからない。きっと、彼女が精一杯自分の腕を伸ばしたぐらいの距離に入ったセカンド達が急に倒れてしまったかのように見えたに違いない。
何をした、何をされた、と。他のセカンドも似たようなもので彼女が何をしたのか理解している者はエイヒスしか居なかった。
エイヒスは一連の流れを見ながら最もイラついていたのは、彼女が自分よりも優れているから。
武の達人が見ていればこう漏らしていたに違いない。美しい、と。
そう、エイヒスも思ってしまっていたのだ。無駄のない洗礼された動き故に、ための物騒な攻撃は一つの舞にも似た美しさを奏でだしていた。それは、彼が目指す到達点の一つだった。
クラルスが先ほど言っていた言葉を思い出す。
『この私が、世界最高峰の騎士学校である我が校におけるSランクという評価を受ける者の実力だ。君たちが目指し、挑戦し、いずれは奪い取る席の指標だぞ』
その言葉の意味を誰一人としてしっかりと理解していなかった。いや、聞き流していた。仕方がないことだ。蝶よ、花よと甘やかされて育てられたお姫様。それが彼等のクラルスに対する認識だったのだ。
「良いかな? 私をただの女だと舐めてかかってくるのはいい。後悔するのは現状の通り、君達なのだから。このご時世だ。まだ多くの魔物が蔓延る世界で武術を納めるのは一般的であり、貴族であればなおのことだ」
一歩、進む。
「なおかつ、この私はアルビオン国聖騎士学校に所属する身だ。騎士学校には遠征授業もあれば魔物の討伐授業があり、嫌でも実践という壁を必ず越えなければならない。それは。セカンドももちろんのことファーストでも同じだ」
さらに一歩、堂々と進む。
「さて、これから教えることはちょっとしたサービスだ。あまり知られていないことだからよく聞いておけ。世界最高峰とも呼ばれるわが校において、ファーストのSランクというものにはある座学の成績、家柄や血筋以外にも、もう一点大きく評価されるものがある。それが何かお分かりかな?」
三歩進む。だけどセカンド達とクラルスの距離が縮むことはない。なぜなら彼らは、クラルスの説明に、思わず聞き入るセカンド達は、ゴクリと
この場を完全にクラルスが支配している。sセカンド達は彼女に
「それは、如何に武術を収めているか。いうなれば、武力。戦闘能力と評してもいい。私を含めたSランクファーストは全員がセカンドのクラスにおける戦闘能力が最低でもBランクが求められている。その中でもトップの私の強さがどれ程のモノだと思う?」
セカンド達の脳裏に再び彼女の言葉が繰り返される。
『君たちが目指し、挑戦し、いずれは奪い取る席の指標だぞ』
彼女は言った。目の前にいる彼女こそが目指す到達点の一つだぞ、と。それは、今までの会話にあった情報をまとめれば、セカンドでいえば最低でもBランク以上のSランクファーストのトップである彼女、かつセカンドが目指すべき指標。
それは、彼女自身がSランクセカンド相当と言っているのだと・・・・・・彼等も騎士を目指し己を鍛えてきた者達。ただの力の弱い女だ、姫だと思っていたことが間違いだと気づくと彼等の目の色が変わる。
もはや、目の前の姫は自分たちが守るべきか弱き乙女などではない。彼女の言い分が正しいのならば、彼女の戦闘能力は自分達と同じか、それ以上ということになる。いや、ここまで来て現実逃避などしても無駄だ。同じなどではない。明らかに格上。
だが、それでもなお彼らのプライドが、臆病になっていた心を支える。ここまでして無罪などとは思っていない。だがやらねば、今ここで彼女を制圧しなければ自分たちの立場が危ういのは間違いない。クラルスに対して彼らの目が強者に向ける目と変わる。最大の警戒をもって。
その様子にクラルスはようやく本気になったようだと満足する。スイッチさえ入れてやれば我が校に入学するだけの才能を秘めた者達だ。本気にさえなれば少しは変わるだろう、と。
「さて、次は誰が……」
次は誰が相手か、と言おうとした時だ……彼女の目の前には大きな影が現れた。
その影の大きさは人よりも数倍大きい。ましてや女であるクラルスと比べれば、なおいっそうとその大きさの差が大きい。
「おっと、忘れていたな・・・・・・」
私はつい苦笑いをしてしまう。我ながら語ることに集中し召喚中の使い魔のことを忘れていた。
目の前の大きな影を前に、ノーリアクションで居られる人間はそういないのではないだろう。だが、彼女の反応はまた少し違ったものでもあった。
クラルスの苦笑いは、再び戦いを楽しむ笑みに変わっていた。
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使い魔【召喚獣】
召喚陣を描いた羊皮紙や媒体を用いて契約が結べる存在を召喚し契約する。召喚されたなかでも召喚者・召喚士、または人と契約を結んだものを使い魔と呼ぶが、召喚したからといって必ず契約できるとは限らない。
使い魔として召喚されるのはユーデウス神以下の召喚神と呼ばれる神が管理しており、かの神が選んだ、契約を結べる知能を持つあらゆる存在が召喚される。それはあらゆる世界から選ばれる。
伝説の騎士、ウィルウェニス・アルブ・オルグランドは神に等しい力を持つ使い魔と契約していたといわれているが、使い魔についてはっきりとした文献は残っていない。
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