第七話 王女クラルス

 放課後、ゼノはいつものように教室を出て、足早にある場所へと向かった。


 ファーストのSクラスだ。彼はFクラスの生徒だが、本来の教室からそれほど遠くないため、道のりはそこまで遠くなかった。


 通常、二年生のSクラスの教室の前には、彼女を慕う黄色い集団が立ち並んでいた。しかし、今日は誰もいなかった。


 教室を覗くと、誰もいない。Sクラスの生徒の人数は少ないはずだが、誰もいないというのは少々驚いた。


 そして、ゼノの探しているクラルスもいない。


「……どこにいるんだ?」


 彼女の行動パターンを知らなかったゼノは、後悔の念にかられる。彼女のファンでも慕っているわけでもないが、彼女のことを考えると、焦りが募る。


 ゼノは、クラルスの行方を探していた。放課後になると、いつも通り彼女がいるはずの場所に行ってみたが、彼女はそこにいなかった。焦りを覚えながら、彼は考え込んでいた。


 すると、廊下を歩く女子生徒の姿が目に入った。彼女は、黄色い集団の一員で、クラルスを追いかけている姿を見たことがあった。彼女に話を聞けば、何か情報が得られるかもしれないと考えた。


「あの、すいません」


とゼノは声をかけた。

女子生徒は振り向いて、ゼノを見た。彼の容姿と、腰に差している剣に一瞬戸惑いを見せたが、すぐに笑顔で返答してくれた。


「私でしょうか? 何か御用ですか」


 女子生徒は声をかけたゼノの方へと振り向く。予想通り、ゼノの容姿、また腰の剣を見て一瞬目が警戒の色を示したが、すぐに笑顔で対応をしてくれる。


「私でしょうか? 何か御用ですか」


 物腰が柔らかく、ゼノは安心した。彼女はファーストの生徒で、キングの装飾をしていた。彼女の言葉遣いや態度は、高貴な家柄の出であることを物語っていた。


「実はフィーリオさんに用事があって来たのですが、教室に居ないようでして・・・・・・彼女がどこに行ったか知らないですか?」


とゼノは尋ねた。


女子生徒は、驚きを隠せない様子で、ゼノを見つめた。しかし、すぐに表情を戻して、言葉を返してくれた。


「フィーリオ様に……どういったご用件でしょうか?」


 笑顔で聞き返してくるが、完全に警戒されてしまった様だ。まぁ、最近のセカンド達の彼女に対する行いを考えれば仕方がない事だろう。


 だが、ゼノからすれば彼女に本当の理由を話す必要はない。怪しまれないよう誤魔化すとする。


「いえ、実はこの包みをフィーリオさんに渡すようにと先生方に頼まれていまして。何やら貴重な資料とかで」


 ゼノは自分がもっていた布で巻かれたものを見せる。もちろん嘘である。

中身を確認されると面倒なのだが。言ってしまったものは仕方が無い。最悪、確認されたとしても校内で見つかった遺物とでも言えばいいだろう。なんとかなる。


「あら、変わった形ですね。それに重そう。なるほど、そうでしたか……残念ながらクラルス様の居場所はわかりませんわ。先程、授業を終わってすぐにセカンドの男子生徒の方達がクラルス様の所にいらっしゃって……おそらく、今はその方達とご一緒なのではないでしょうか?」


 ゼノは女子生徒の言葉を受け止め、内心で安堵した。少なくとも、中身を確認されることはなく、話を切り抜けることができた。


「そうですか、ありがとうございます。ところで、その男子生徒たちって、どんな人達なんですか?」

「ええ、おそらくいつもどおりのペアの申し込みなのでしょうけど……何やら思いつめた御様子。本当はついて行きたかったのですが、今回は誰もついてこない様にとクラルス様から言われてしまいましたので。今頃、セカンドの生徒たちがクラルス様の前で決闘でも行っているのではないでしょうか?」


 困ったものですわ……と女子生徒は頬に片手を持っていて、そう付け足す。


 女子生徒の言葉に、ゼノは深く考え込む。

――何か言いようもない、何かイヤな予感がする。体が力む。ゼノの直感が何かを訴えかけてくる。


「あの、フィーリオさんとその男子生徒達が何処に向かったかわかりますか?」

「ええ、校舎の裏の方に向かっていったかと思いますが……おそらくその先の闘技場だと思うのですけれど」

「そうですか。ありがとうございます。助かりました」


 女子生徒に礼を言うと、ゼノは、学園の中を走り抜ける。目的地は、校舎の裏にある闘技場だ。だが、女子生徒の言葉が心に残る。男子生徒たちが、思いつめた様子で闘技場に向かっているというのだ。何か、イヤな予感がする。


 学園の裏手には、闘技場以外にも、様々な場所がある。それらを熟知するゼノは、どこに向かえばいいのかすぐに分かった。ゼノは、直感に従って、闘技場とは別に、もう一つ近い場所に向かうことにした。


    ◆


 ―side.クラルス・アル・フィーリオ―


 私は普段なら教室で自習している時間帯だったが、今は校舎から相当離れた場所にいた。そこは廃墟と化した旧教会である。


 理由は、教室に入り込んできたセカンドの男子生徒たちのせいだった。彼らは私に「旧教会までついて来てください。そこで大切な話があります。賢い貴方なら分かっていただけますね?」と言い、笑顔で腰に下げた剣の柄を見せつけて脅迫した。


もしかしたら、いつものペアの申し込みかもしれないが、私は今の状況を理解していた。彼らに従い、旧教会までついていくことにした。


 しかし、他の生徒たちがついて来ようとするのを止め、私は一人で彼らについていった。私個人の問題でもあるのだ。旧教会を選ぶとは、なかなかに考えた行動だ。あの場所は特別な意味を持つ。


 このような手段を取ろうとする輩はたかが知れているが、私にとっては暇つぶしにもなりうる。


 は私の存在に全く気づいていないようで、何かに八つ当たりしたかったのかもしれない。


 周囲を取り巻くセカンドの男子生徒たちとともに旧教会に案内され、内部に入ってみると、思いもかけずに見覚えのある顔が並んでいた。


「あなたたちは、何のために私をここに呼び出したのですか?セカンドさんたち」


 聞くまでもなく彼らが何者であるかじゃ見覚えがあることから気づいていた。なぜならどの顔もつい最近『断った』者達だ。そう、セカンドで私にペアの申し込みをしてきた者達……。


 彼らが説明する前に、私は彼らの心情を推し量っていた。ここにいる誰もが、自尊心を捨てきれない、裕福な家庭に生まれ育ち、何不自由ない生活を送ってきた人々だ。


そして、中でも目立つ男子生徒がいた。彼の名はレドモ・エイヒス。彼は、制服を着こなし、茶色のサラサラの髪と整った顔立ちをしている。彼がエイヒス家の次男だということは、ある程度知っていた。エイヒス家は、アルビオン国の中でも有力な貴族で、彼らの祖先は邪神たちと戦い、勝利した英雄である。


「申し訳ありません。私たちも、このような方法で話をすることを望んでいませんでしたが、やむを得なかったのです……」


レドモが話し始めた。彼の言葉には、少しの謝罪の気持ちが込められているように感じた。しかし、私はその謝罪が本当に誠意あるものであるかどうかを見極めようとした。


「では、どのような話なのか教えてください」


 私が問いかけると、レドモは、いくつかの単語を並べて、私に語りかけた。


「いえいえ、そう時間は取りませんとも。ええ、貴女が素直であれば・・・・・・すぐに終わります。ほんの少しお話を聞いていただければよいのです」

「早く話しなさい」


 エイヒスはスッと腕を肩まで並行にあげて、セカンドの者達へと向ける。


「我々がどういった者達の集まりであるか、分かりますか?…………それとも我々の顔などもう貴方の記憶にすら残らなかったのでしょうか?」


 セカンドたちは怒りに満ちた瞳で私を睨みつけ、今にも噛み殺そうとする獣のよう。しかし、私が忘れるわけがない。記憶力には自信がある。


私は彼らが相手との実力の差を理解せず、ただただ『王女』という言葉に集ってきた蛆虫だと記憶している。だからこそ、私は彼らに反抗する。


「さあ、記憶力には自信がありますが。これでも学年成績一位ですので。でも、誰でしたか? どうしても思い出せないですね。セカンドの生徒の中には残念ながら私は知り合いが誰一人といなかったと思うけれど。名前を教えてくれたら思い出すかもしれませんね」


 その言葉にエイヒスを含めたセカンド達の顔に血管が浮かび、明らかに頭に血が上り怒り心頭に達している。


それを見てクラルスはまるで怖がる乙女の様に口元を両手で覆い隠し、その下に


――笑みを浮かべた。


 相手を挑発し、今か今かと相手が襲い掛かるの待ち構え、笑みを浮かべる姿は鞘姫などとちやほやされる姫などというものではなかった。

 それは、獲物を罠に誘導し、動向を伺う狡猾で獰猛な獣・・・・・・騎士王の、偉大な戦士達の血を受け継ぐ彼女自身もまた、紛れもなく戦いを求め、その戦場に身を置く戦士であると示している。




**************

Aランクセカンド【アルビオン聖騎士学校】


Aランクセカンドは世界各国の騎士学校における共通の学年の生徒の能力や資質、価値を簡略的に分けたものを示す。

A~F とランクがあり、A>>>>>Fという形の強さになる。

アルビオン聖騎士学校では毎年1学年の生徒が1500人から2000人ほどとかなり多い。

その中でもAランクに選ばれる生徒は100人程。

この内訳はファーストとセカンドの総人数なので、Aランクセカンドは1学年50人しか選出されない優秀な生徒といえる。

特に、アルビオン聖騎士学校は世界中から生徒が集まるため、実質このAランクセカンドというのは人的資源で考えれば、1年に50人しか産出されないエリート騎士、戦士、戦力である。

そんな彼らの上にSランクいう一学年十数枠しかなく、セカンドだけでいえば十人に満たない最高ランクのクラスに選ばれた生徒たちが存在している。その価値は言わずとも高いが、この世で英雄と呼ばれるのはそんな彼らの中でも一握りである。

ゼノ・クラルスの世代は訳1800人と多い方である。

細かい内訳【セカンド・ファースト両方のを含めた生徒数。割る2をすることそれぞれの数になる。】

Sランク11人。

Aランク150人。

Bランクは200人。

Cランクは250人。

Dランクは訳300人。

Eランクは訳400人。

Fランクは訳500人。 合計訳1800人

【※Cランク以上は人数が決まっているがDランク以下は人数に制限が特になく、毎年曖昧な偶数になる。生徒数も多いため、教室は基本2つに分かれている】




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