第一話 約束の剣―― ゼノと少女の運命の約束

一人の伝説の騎士が神々の代理戦争を終結させてから、時は流れ・・・・・・。


-ユーデウス歴505年- 

 

 机と椅子が並び、職員室として使われている部屋には、多くの大人たちが仕事に没頭していた。中には声を張り上げて笑いあう者もいた。その一角に、男性と青年が向き合っていた。


 男性は、まだ若いと言える三十代程の教員だ。軍服のような制服を身にまとい、たくましい体つきをしている。対して青年は、学生服姿のままで、まだまだ幼さが残る十代後半から二十に見える。その体格は、教員とは対照的に細く、見るからに子どもっぽかった。


 白いシャツに赤いネクタイ、黒いベストとズボン、黒革の手袋と茶色のブーツを身につけている青年は、アルビオン聖騎士学校の男子生徒だった。黒髪は肩まで伸び、前髪が目を隠すほど長かった。手入れは行き届いておらず、毛先はあちこちに向いていた。姿勢も若干背中が丸まっており、何となくだらしない印象を与えていた。


青年の名前は、ゼノといった。彼は、聖騎士となるために学んでいる最中であった。しかし、彼には教育を受けることよりも、自分自身の目的があった。それは、一人の女性を探し出し、彼女に自分自身の存在を示すことであった。そう、ゼノはある女性を探すために聖騎士学校に通っていたのだ。


「いよいよ、お前も二年になるわけだが、ペアを決めなくてはならないことはわかっているな」


「・・・・・・はい」


職員室で、ゼノと呼ばれた青年は学校の教師に説教、いや忠告を聞かされていた。


一年から二年に上がり、学校全体が浮ついているようで、どこかヒリついている騎士学校新年度の独特の空気の中、教師が青年に向けるものは、どこか腫れ物を触るような、面倒そうな感情で、言葉の節々からそのことがわかる。


それは、もちろん話しかけられている青年ゼノにも十分に伝わってくる。


「ペアが決まらなかった者は、退学です」


教師からの問いに、ゼノは機械のように決まったセリフ、正しい答えを唱える。それを聞いて、教官は大きく頷く。


「そうだ。早めにペアを決めておけよ。それがわかっているならいい。お前は根が悪くないのはわかっているし、授業もおとなしいし、問題も起こさない。だが、この成績のままでは三年生に上がるのは難しい。私はお前を信じている。御父様もな。だから、ちゃんと精一杯がんばってみろ。努力は裏切らないな?以上だ、解散してよろしい」


「はい。失礼します」


 ゼノは教師に頭を下げると、真っすぐ職員室のドアに向かい、その前で一礼すると、職員室から出て行く。


 職員室を出ると、白く長い廊下が広がっていた。廊下の窓からは夕焼けの光が差し込み、特に色を持たない校舎は夕焼け色に染まっていた。ゼノはその光景を少し眺めた後、制服のズボンポケットに両手を突っ込んで、絵に描いたような悪い猫背で歩き出した。


 ありきたりで、つまらなくて、嘘くさい説教。それを受けたゼノは寂しげな表情で鼻笑う。

 

――心底どうでもいい


 彼の表情は目元が見えないため、読み取ることはできない。制服は着崩しているわけでもないのにだらしなく見え、何故かゼノには似合わないと彼に会った者は感じる。


 やや猫背のように前に重心が寄った歩き方をしているのだが、その背中は曲がりきってはいない。わざと姿勢を悪くしているかのように感じさせる。何もかもちぐはぐで、彼を見た人からは不良のように見えるかもしれない。いや、どこか諦めすら感じさせる雰囲気は落ちこぼれのように見える。


 彼は、アルビオン聖騎士学校において、いわゆる問題児である。問題児と言っても喧嘩などはしない。素業そぎょうが悪いわけでもない。ただ、成績が悪い。


ゼノは教官に目をつけられている、というよりは、仕方なく構われている。成績は底辺も底辺。学年最下位だ。学校に入れたのが謎だとよく言われるし、どうやって入学したのかともよく聞かれる。

 

 実際に彼は裏口入学というもので入学したため、その問いや疑問はある意味正解だろう。


(やれやれだな)


 ゼノは、愚痴ぐちる相手もいないので一人寂しく、愚痴る。彼がこのアルビオン聖騎士学校に入って一年が立ち、現在は二年生。


アルビオン騎士学校は、大海の真ん中に浮かぶ島に建てられた騎士養成学校で、白い石材・石灰岩を使った外装が特徴的で、「白」を表す名前にふさわしい白い都市と呼ばれている。


かつては最悪の邪神が住まう呪われた島であったが、伝説の騎士ウィルウェニスが最後の邪神を神の加護を持って撃破し、邪神との戦いに身を捧げた騎士たちと彼女が持つ七本の聖剣の力により聖地とされた。その結果、神々に祝福された『白く輝く、人々の希望』という意味もこめられ、アルビオンと命名された。


ゼノは、詳しいことは知らないが、童話としても語られるアルビオンの伝説に興味を抱いており、時間があれば調べることを考えている。しかし、彼は学校の勉強に時間を割かなければならず、暇があっても童話に手を出すことはなかった。


 ゼノは、静かな廊下を歩きながら、窓からの夕日を見上げた。背景には白い校舎がそびえ立っていた。彼は、ぼんやりとした表情で、深く考え込んでいた。


 この島がまぜ空に浮かんでいるのか、元はただの大陸の一部だったのか。この問いは、彼ら人類にとって、未だに謎である。伝説の騎士たちが、この島を聖地としてから500年以上が経過したが、それ以前のことは全くわからない。ゼノは、神秘的な何かが存在するのだろうと考えていた。それこそが、神のみぞ知るということかもしれない。


ユーデウス教会総本山にして神聖国サンクトゥスやユーデウス教会の信徒たちは、この島を崇め、アルビオン国を特別な場所として認識している。サンクトゥス国は、他国と比べて、神への信仰が非常に強く、多くの国々と友好関係を結ぶことができていない。宗教的思想に染め上げられた頑固な、かの大国と数少ない友好を結べているのはアルビオン国としては、確かに神の恩恵と呼べるかもしれない。


 この世界には、ここアルビオンという空島以外に、アース大陸という大陸が存在する。その大陸は、海に囲まれ、非常に遠く離れているため、近道は海路か空路しかない。しかし、海路には、大海生物や魔物、天候不良などの障害があり、空路には燃料問題もある。しかし、アルビオン島は、大陸に対して海の真ん中に位置し、多くの人々が移動の拠点として利用している。島周辺の天候も安定しているため、商団や旅行者たちが島を経由することが多く、この島が発展していったと言われている。


 また、アルビオン国は、周辺の安全を守るために騎士団や聖騎士学校の生徒たちに定期的な見回りを行わせ、危険な生物や魔物を狩ることで安全を確保していた。この小さな島国は、世界にとって重要な役割を果たしていた。


そんな中、この国に住む少年ゼノは、養父ようふのつてで聖騎士学校に入学することができた。本来は入学の予定がなかったゼノだが、養父の力によって学校に通うことができたのだ。


 しかし、ゼノは普通の学校生活に無関心に最低限の成績を維持し過ごしていた。それでも、学校に入ることを決めた理由があった。それは、彼が約束した少女がいたからだ。


――僕は……君の騎士になるよ


 彼は、十年前にその言葉を口にして、約束の場所や光景、風や匂いを今でも鮮明に覚えていた。彼が学校に入った理由は、その少女と再会するためだった。


彼は、安全が守られるこの国で、少女との約束を果たすために騎士をもう一度、目指すことにした。それが、自分の幸せへの道だと信じ。


**************

ゼノ

本名:ゼノ・バレリア・ヴァルフェル

アルビオン聖騎士学校に所属している。が、見た目は騎士には似合わない華奢で黒髪黒目の男性で、問題を起こしていないものの、成績が悪く問題児とも呼ばれている。

身長は176cmで、姿勢や髪型から痩せている印象を与えるが、実際には中肉中背の平均的な体つきをしている。

彼の顔を見たことがある者は少なく、声を覚えている人もほとんどいない。口癖は「まぁ、いいか」という、彼らしい余裕を感じさせる言葉である。


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