自殺うさぎは聖なる手榴弾を探し回る
人々の話を聞いて、聖なる手榴弾という武器なら自分を殺せるかもしれないという情報を得た。
ので、私はそれがあるというお城に突撃することにした。
恐るべき怪物が城に突撃したということで、騎士達も国民達も大騒ぎになった。
お城には聖剣を使える王様はいないし、ついでに噂が確かならあの日私を傷付けられた聖なる武器を使える騎士達は一人を除いて王様に付いて行ってしまったらしい。
つまり、人間達からすると殺人ウサギに対抗する手段はほぼない、というわけで。
そんな状況でその怪物がお城に突撃したので、そりゃあ大騒ぎにもなるよなあと。
お騒がせしてごめんなさいね、今度こそ死ぬから、誰も死なせず死ぬから、それで許して。
どれだけの大騒ぎになろうと、国民全員死んで国が滅ぶよりもマシでしょう?
というかなんでこんなに色々やっても死なないんだろうか、私。
騎士達がたくさんいたけど、お城の中には割と簡単に入れた。
誰なら聖なる手榴弾のある場所を知っているだろうかと思いながら城の中を徘徊するけど、誰かに質問しようとすると逃げられるか泡を拭いて気絶されてしまった。
途中で騎士達が切りかかってきたのでそれは放置した、だいたいが諦めて逃げるか、泡を拭いて気絶した。
そうやって徘徊していたらなんか広い部屋にたどり着いた。
そこにはたくさんの騎士と、綺麗なドレスを着た女の人がいた。
騎士のうちの一人が叫ぶ、王妃様、お下がりください、って。
というかあの騎士さん、あの日私を殺しにきた騎士だ。
持っているのもあの日私の腕を抉ったり脚を砕いた聖なる槍だ、聖なる手榴弾でも死ねなかったらあれを借りてみよう。
「聖なる手榴弾、ちょうだい」
王妃と呼ばれたドレスの女の人にそう頼むと、王妃さまは「ひい」と叫びながらも気丈に私に「あなたは一体何者で、一体何がしたいのです!? そして聖なる手榴弾を一体何に使う気なのですか!!」と聞いてきた。
何者かと言われても自殺うさぎだとしか答えられないし、何がしたいのかと言われると自殺だし、聖なる手榴弾は自殺のために使うんだと答えると、王妃と王妃を守る騎士達はぽかーんとした。
「き、貴様は殺人ウサギだろう!?」
騎士さんがそう叫ぶ。
「そうだよ。今は自殺したい兎だから自殺うさぎだけど」
「何故、聖なる手榴弾で自殺を?」
「何しても死ねなかったんだけど、それ使えば死ぬかもしれないと噂で聞いて」
王妃様に聞かれたので答えたけど、何故か納得してくれてなさそうな顔。
「そもそも何故貴様のような怪物が自殺しようとするのだ!!」
「死にたいから死ぬだけだけど、それが何?」
顔を真っ赤にした騎士さんに答えると、騎士とは反対に冷静そうな王妃様が静かに聞いてくる。
「……何故、死にたいと思ったのです?」
「……私ねえ人間嫌いだったの。喧しいしうるさいし鬱陶しいし、私の住処に勝手にやってきて騒いだり襲ってきたりする馬鹿な生物だから、本当に嫌いだったの。だから殺したの…………でもねえ私、ちょっと前まで記憶喪失で、殺人ウサギだったことすら忘れて人間に紛れて生きてたの。なんでかっていうと洞窟で辛うじて生きていた私のことをね、普通の人間の女の子だって勘違いした人が親切に助けてくれたからなんだけど……それで何にもわからないまま人間として生きていたら、親切にしてくれた人がいっぱいいたの。だから殺人ウサギだったことを忘れていた私は、人間のことが好きになったよ」
「記憶喪失……だと!? しかし貴様は怪物だ!! いくら記憶がなくなろうともその本質が変わるわけが……そもそもその見た目で人間に紛れ込むなど……!!」
「じゃあ、これなら?」
そう言いながら、人間の姿に戻ってみた。
どこにでもいそうな少女の姿になった私に、その場にいた誰もが絶句した。
なんだか注目されて気恥ずかしかったので、怪物の姿に戻った。
「っ!!? 貴様まさか亜人か!!? 馬鹿なただの亜人があのような力を持つわけ……」
騎士さんが滅茶苦茶びっくりしたって感じの顔でそう聞いてきたので、私は知っていることを答える。
「亜人は亜人でもお父さんが結構やばい人でね? お母さんは普通の兎だったらしいんだけど、お父さんはきゅーきょくの生物とやらを作るために強い亜人をひたすらに掛け合わせた末に生まれた超人だったらしいから……龍とか狼とか獅子とか鳳とか、他にもまあ色々?」
「っ!! 貴様、カイメラの娘か!」
なんか知らない名前が出てきた。
誰だよカイメラ。
けど違うとも断じられない、何故かって。
「うーん? それはわかんない。お父さんはただのお父さんだったし、名前教えてくれなかったから……けど私のお父さんが誰かだなんてどうでもよくない?」
「たしかに、そうですね……」
王妃様が同意してくれた、なんかちょっとだけ嬉しかった。
「それでぇ、色々あって人間として生きてたんだけど、ちょっと前に自分が殺人ウサギだったことを思い出して、ものすごくものすごく悩んだよ。ここにいればいつか誰か殺してしまうかもしれないって思ったけど、私を助けてくれたすごくすごく大好きな人に会えなくなるのが嫌だったから、もう少しだけ私はいい仔の人間として生きようって思ってた……実際、誰も殺さずにいられたから、このままなんとかなるかなっておもってたんだけど」
そういうと、王妃様と騎士さんは大きく目を見開いた。
「けどねえ、みんながあの人の文句を言うの。あの人一個も悪くないのに、みんなこそこそひそひそって、兎だから聞きたくないのに聞こえちゃってさあ……ぶっ殺してやろうと思ったよ、こんな国滅ぼしてしまおうと思った」
「その、あなたの大好きな人が文句を言われるのは……その方が、あなたを国の引き入れてしまったから?」
「ううん。ぜんぜん別の事。大体、殺人ウサギが生きているだとか誰かがこの国に引き入れたとか、そういう話聞いた事ないでしょ?」
そう肩を竦めながら王妃様に答える。
「本当にくだらないことなんだよ。あの程度のことでよくもって思ったし、それで悪口言ってくる奴らは本当に殺したかった。でもそれをやったらあの人がもっともっと責められるだろうし……今更だけどやっぱりこれ以上人間を殺したくはなかったから……それでぇ、もう死ぬしかないなあって」
そう言うと、王妃様と騎士さん達はものすごく驚いたような顔をした。
誰も何も言わなかったので、続けて話す。
「それに私が死ねば……あの人は恐ろしい怪物を倒した英雄になれるんじゃないか、って……だって私は王様にすら倒しきれなかったすごい怪物なわけで……そんなのを武器も使わず倒せたとか、超すごいってことじゃん? そうすれば誰ももうあの人に文句言わなくなるかなーって……まあ、ここまでうまくいくとは思ってないけど、可能性は若干あるかなあって」
そう言って笑うと、王妃様の顔色が悪くなった。
騎士さん達は意味のわからないものを見るような目で私を見てる。
「だからさあ? 聖なる手榴弾、ちょうだい。ダメだったらそこの騎士さんの槍貸して」
「……わかりました、しかし一つ聞かせてください……あなたの大切な人の、名は?」
王妃様にそう聞かれて、そういえば誰であるかは言っていなかったことを今更思い出す。
「レッド。この国で一番優しくて、強い騎士だよ」
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