自殺うさぎは塔から落ちた
そうして私が向かったのは、少し離れたところにある廃墟の塔だ。
廃墟だけどとっても高い塔なので、元殺人ウサギの私でもてっぺんが見えないくらいの塔なので、ここから落ちたらきっと死ねるだろうと思った。
大昔は偉大なる魔術師が住んでいたというその塔を、私はただひたすらに登る。
塔のてっぺんにたどり着いた頃には、すっかり日が明けていた。
真夜中には登り始めたのに、日の傾き具合から察するにおそらくもうお昼近い。
塔のてっぺんでは風が強く吹いていた、元殺人ウサギだったから平気だけど小さな子供だったら飛ばされてしまうかもしれないくらいの強風だ。
風のせいで耳や髪が大きく揺れて鬱陶しい、あとすごく寒い。
だけど、もう死ぬのでどうでもいい。
私は死ぬ前に本当の姿に戻った。
本当の姿というよりも、一番強い姿と言った方が正しいけど。
全身が白い毛に覆われ、人間らしいところなんてほとんどないような怪物の姿になった。
だって、この姿で死なないと私が殺人ウサギだって誰も気付いてくれないだろうし。
人間の姿や耳だけ兎の姿の方があの人が褒めてくれたから好きだし死ぬのならその姿の方がよかったけど、その姿で死んでもなんの意味もないので。
「ばいばい」
最後にそう言って、私は塔のてっぺんから身を投げ出した。
長く長く落ち続けて、とてつもない衝撃を感じた。
頭が地面に当たったすごい音がした。
自分の身体が地面にめり込んだ。
だけどそれだけだった。
別に痛くなかったし、死ななかった。
それどころか地面にめり込んだ時に口に入ってきた土の味の方が不愉快で気持ち悪かった。
のそのそと地上に這い出して、ペッペと口から土を吐き出しつつ、頭に手をやる。
傷一つついていなかった、血も流れていない。
全身無傷だった。
「な、なんだ今の音は……!!」
どこからともなくやってきたのは、見知らぬ騎士だった。
あ、違う。知ってたあの日殺人ウサギを殺しにきた騎士達のうちの一人だ。
聖なる武器は今もあの時も持っていなかったけど、なんかこんな感じの騎士がいたのは覚えている。
彼はどうも、自分が落ちた時のすごい音を聞きつけてやってきたらしい。
彼は私の顔を見るやざっと顔を真っ青にしてこう叫んだ。
「さ、殺人ウサギだ!! 殺人ウサギが出たぞお!!!?」
そんな叫び声に、騎士達がわらわらと湧いてくる。
……やらかしたなあ。
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