殺人ウサギ、お見送りをする
「それじゃあ、行ってくる」
そうしてあっという間にレッドが国を出て行く日がやってきた。
「……いってらっしゃい」
鎧兜で覆われた顔を見上げると、頭を撫でられた。
「必ず戻る――だから、留守は任せた」
そう言って、彼は私に背を向けた。
それから少しして、私は家を出た。
なんでもお昼頃に街で出征する王と騎士達が見られると街の噂で聞いていたのだ。
それなら最後にもう一度だけレッドを見送ろうと思った、どうせ人混みに紛れてあっちからは私のことなんて見えないんだろうけど。
それでついでにおつかいも済ませてしまおうと思った、パンがあと少しで切れてしまうので。
華々しい騎士と彼らを従える王の出征とだけあって、王のご尊顔や騎士達を一目でも見ようとする人々で道はごった返していた。
少し待っていると、王と彼に従える騎士達の行列がやってきた。
レッドはどの辺だろうかと背伸びして行列を見る。
レッドの姿よりも先に見えた、王の顔を見て心臓がドクンと跳ねた。
「ぁ……」
知っている顔だった。
あの日、私を殺すためにやってきた騎士達の先陣を切っていた人。
私のお腹を斬った人。
よく見ると、私に毒矢を放ってきた騎士や、私の頭を潰した騎士が。
「あ……あ、あ」
背伸びしていた足から力が抜ける、もう痛くないはずの右脚が一瞬だけ痛かった。
ただ、呆然とあの日自分を殺そうとした人達の姿を見る。
そうしているうちに耳が解けるように人間のものから兎のものへと変化した。
「ああ……そうだ、私は……」
私の名前は、
あの洞窟を住処としていた、悍ましき怪物。
多くの人間達を戯れで殺した。
殺す必要がない人間をたくさんたくさん殺した、極悪非道の化物。
それが私の正体だ。
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