殺人ウサギ、思い出す
「思い出した、思い出した…………!!」
思わずその場から駆け出す、何人かの人間にぶつかりそうになったけど、殺人ウサギの身体能力でそれは全て避けた。
私は殺人ウサギ、あの洞窟に近寄るものを全て殺し続けた者。
多くの人間を殺めた恐るべき化物が、私だった。
なんで今まで忘れていた? きっと頭を潰されたから。
あの日、あの騎士達は私を殺し損なったのだろう、首でも落としてくれれば流石に死んでいただろうに、きっと頭を潰した時点でもう十分だと思われて放置されたんだろう。
だけど私は死んでなかった、自分でもびっくりだ。
レッドに拾われた時点で頭は治っていたのは……というか頭以外治っていなかったのはきっと回復が追いついていなかったからで、他の傷がすぐに治ったのは偶然そういうタイミングだったのか本当にあの薬がよく効いたのか。
そんなことを考えているうちに、レッドの家の前まで辿り着いた。
そしてその前で凍りついたように動けなくなった。
自分はここにいてはいけない。
あの人のところにいてはならない。
だって私は殺人ウサギだ。
ひとをいっぱいころした、めざわりだったから。
そうしたらいっぱいひとがやってきたのでぜんぶころした、わずらわしかったかったので。
殺人ウサギにとって人間というものは目障りでよくわからない生物だった。
理解不能な生物だった。
だから殺した、殺せてしまった。
だけど、今の自分には、普通の人間として生かされていた自分にはそれがとてつもなく恐ろしくておぞましいことだとわかる。
小さな子供を殺したことがある、煩かったからというただそれだけの理由で。
一昨日同じくらいの大きさの子供が迷子になっていたので親元まで届けた、笑いながらお礼を言ってくれた。
多くの騎士達を殺した、だって自分のことを殺しにくるから、鬱陶しくて黙らせたくて。
私が殺した騎士達の中には、きっと彼の友人や仲間がいっぱいいたのだろう。
「ぁ……ああ、ぁ……あ」
普通の武器では傷ひとつつかない私を殺すために、やってきたのは聖なる武器を携えた立派な騎士達。
聖なる武器で傷付けられた私の身体はいつもみたいにすぐに治ってくれなくて、それでも死なずに数週間、ずっとずっとそのままの状態で。
頭を潰されたせいで都合よく自分のことを忘れて、一年もの間人間としてのうのうと生きていた。
何千人もの人間を殺した化物が、のうのうと。
それがどれだけ許されないことであるのか、今の自分には理解できた、理解できない方がずっと楽なのに、理解できてしまう。
「……かえろう」
どうせ誰にも自分は殺せない、あそこまでやられても自分はまだ生きている。
なら、あの洞窟に……自分の巣穴に戻って引きこもろう、もう二度と誰にも会わないように。
もう二度と誰も殺さないように。
だけど、その場から動けなかった。
だって、留守を任せると言われた。
あのひとが待っていろと言った。
いやだ。
もう二度と会えなくなると思うとそれがすごく嫌だった、そんなおこがましいことを考えてしまえる自分の人でなしさも本当に嫌だった。
どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう。
「おねえちゃん、どうしたの?」
いつの間にか隣に近所に住んでいる子供が立っていた。
私を見て、心配そうな顔をしていた。
いつか殺した子供の顔と、その顔がかぶって見えた。
「っ!!? なんでも、ない……っ!!」
そう言って、私は反射的にレッドの家の中に駆け込んだ。
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