殺人ウサギ、日常を謳歌する
出来上がった野菜スープの味見をすると思っていたよりも美味しかった。
昨日おまけしてもらったベーコンが結構いい味を出しているらしい。
これなら多分喜んでもらえるだろうと思って、私は思わず笑ってしまった。
騎士の仕事で忙しいレッドの代わりにこの家の家事を引き受けてそこそこの年月になるので、少しはいろんなことが上達してきた。
最初はあまりにも何もできなかったので怒って追い出されてしまうのではないかと思ったこともあったけど、レッドは優しい人間だったのでそういうことにはならなかった。
一年も経つとレッドという少年騎士がどのような人物なのかも大体把握できた筈だ。
好物は肉よりもフルーツ、特に葡萄が大好き。
口調もガラも悪いけど、根は優しい。
というかこんな身元も素性も一切わからない変な女の面倒を一年も見ているのだから、優しいを通り越して甘っちょろいのだとおもう。
たまーに私相手にめちゃくちゃ騎士っぽい口調で話してくる時がある、すごく格好いいのだけど心臓に悪いので正直やめてほしい、そのあと悪戯っぽく笑うのも本当にやめて。
騎士としては若いがとても強くて天才とも呼ばれている、そのうち国一番の騎士すら超えるだろうとも言われているようだ。
ただ、それよりも何故か頑なに鎧兜を外さない変人という評判の方が強いようだった。
私もこの家に来て一年くらいになるけど、そんな私ですら一回もレッドの顔を見たことがない。
ご飯を食べる時も寝る時も外さないのだ、一度どうしても見てみたくて風呂場に突撃したこともあるけどその時も鎧兜をしていたし滅茶苦茶怒られただけだった。
どうして外さないのと何度か聞いてみたことがあったけど、そのたびに『この顔を見た奴は呪われる』、『生まれた時に負った火傷のせいで爛れていてとても醜い』、『実家の因習で母親以外に顔を見られると不幸になる』などと誤魔化された。
全部本当のことなのかもしれないけど、どうにも嘘っぽい感じがしたので信じてはいない。
どういう理由か知らないけど、そこまでして見られたくないのならもういいか、と最近になって思うようになってきた。
「そんなに長い間いないの……?」
「ああ」
帰ってきたレッドから話があると神妙な声で言われて、とうとう追い出されるのかと身構えていたら、ただの
短くて一ヶ月、長ければ二ヶ月程度国を離れなければならない、とのこと。
追い出されるのではなかったので安心したけど、すぐに別の不安が襲ってくる。
「二ヶ月もいないの?」
「ああ……うまくいきゃあもうちょい早いだろうが……ああもうそんな顔すんな、遠征っつっても大したことねぇからよ。……それともなんだ? 俺が討ち死にするとでも思ってんのか?」
「しんじゃうかもしれないの?」
ひょっとしたらもう二度と会えなくなる可能性まで示唆されて指先が冷たくなった。
一人でショックを受けていると、レッドはなんだか慌て出した。
「い、いや死なねーから!! 絶対死なねーからそこは安心しろって!!」
「……う、うん」
大丈夫だというのなら大丈夫だと信用しよう、だって国で四番目くらいに強いっていう話だし。
……ほんとうにだいじょうぶ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます