ep.29
昼食を食べ終わり橘さんに手を引かれるまま再び洋服店へと入っていく。
「じゃあ、今から選んでくるから宇津くんはそこで待ってて」
そう言われて待つこと十数分、橘さんが大量の服を持ってくる。選ぶと言った手前今から断るなんてことはしないが、これほど多いとは思わなかった。
「……もう少し服の量減らさないか?さすがにこれ全部見ていくのは…」
「宇津くんがやりがい無いって言ったからでしょ。じゃあ、今から着ていくから好きな奴があったら教えてね」
こうして、俺の人生史上最も長いであろう二人だけのファッションショーが始まった。
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「お買い上げありがとうございます!」
店員さんの元気な声に送り出され店を出る。選ぶのに疲れげっそりした俺とは対照的に橘さんは俺好みの服が買えてご満悦だ。
時間は三時を過ぎていて橘さんの服を見ただけで二時間弱かかっている。
「…少し疲れたから休まない?」
「そうだね、休もっか」
俺の気力のない姿を見て苦笑いすると近くにあった休憩用スペースに入っていく。
「…橘さんはずっと服を着替えてた訳だけど疲れないの?」
「疲れないわけないじゃん。……でも、それよりも、好きな人に服選んでもらって嬉しい事の方が勝ってるだけだよ」
後半になるたびにどんどん顔を赤くさせていく橘さん。何だか、いつも以上に橘さんが可愛く見える。こうも近い距離で好きな人なんて言われると、こっちも好きになってしまいそうだ。
「…ト、トイレ行ってくる」
「…お、おう」
危ない危ない、雰囲気に流されてよくないことを口走りそうだった。今のうちに自分を落ち着せるために深呼吸をする。
「ちょっと、お兄さん。休日に一人であそんでるの? 暇なら私と遊ばない?」
ふぅ、これでやっと落ち着いた。これから俺はこんな誘惑に耐えられるのかが心配だ。
「…ちょっとお兄さん!私が聞いてるんだけど!」
そういえば、これからどこ行くんだろうな。荷物持ちとしか聞いていないので予定が分からない。多分、他にも行く所があると思うのだが。
「……ちょっと、聞いてるの!?」
それにしても今朝から周りからやけに見られるな。やっぱり格好変だったのか…?
「……無視しないでよ…」
おっ、橘さん戻ってきた。改めて橘さんに俺の格好を聞いて、ハッキリさせよう。今朝は何でもないなんて誤魔化されたが、周囲の反応を見るとやっぱりおかしいんだろうし。
「結構えげつないことするんだね…… 宇津くん…」
「え?何かしたか?」
「えぇ… 気づいてなかったの…… まぁ、ちょっかいかけられなくてよかったよ。次の場所行こっか」
こうして人生初の逆ナンパは俺の知らないところで過ぎて行った。
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