第10里 傍観 ▷ 放水

 陽が沈み、港に明かりが灯された頃。ニコラが帰ってきて屍累々の惨状に顔を引きつらせる。ボロトが泳いで近寄って来ると、やっと他の邪魔者たちは離れていった。


「今日は、ここでテア様に宿でお休みいただきたい。良いだろうか。」


 肯定の意を砲の上下で伝える。「日の出後に出発したいので、よろしく」と言われた。夜の間は沖で休むことにする。風はベルダンから吹いている。休む間に港へ寄ることは無いだろう。


 十分離れたところで進化して試していなかった爆雷を撃ってみる。

 小さな球が浮いてこないので、海中もしくは海底に落ちたのだろう。少し離れてみたが爆発しない。時限爆弾ではないようだ。次はバラまきながら移動してみる。いくつかの爆雷が爆発したのか海面に気泡がプツプツ出ていた。火力は期待できなさそう。どうせだからバラまき続けてみよう。


 船底を気泡が刺激している。炭酸風呂みたいだ。

 ペルダン、アルトンそしてワーツェル方面からそれぞれ船が近づいてくる。明かりを点けていないのは、ベルダンからの船のみか。

 スクリュー音を立てない程度の速度で北東へ移動する。


 ↑アルトン          ↗

       〇       ▽

       ↓

←ベルダン

     〇→       ↖

               〇

                   ↘ワーツェル


『”100回攻撃に耐える”のアチーブメントを獲得』


 え? 爆雷で損傷していたのか。痛覚が無いから気を付けないと。


『進化項目を選択してください

 ——砲

 ——門

 ——翼

 ――波           』


 今は翼かな。海上の体積が変わりそうな選択は位置バレしそうだ。


『翼が選択されました

 進化終了まで3.2.1……終了』


 変化は水中に起きた。スクリューが縦に2つ並ぶ配置に変わり、水中に翼が生えた。前にフラップと2枚の羽、後部にフラップと1枚の羽は、水の抵抗が大きくなったようにも感じるが、何か意味があるのだろう。


 ベルダンからの無灯火船とワーツェルからの大型船が近づいて……あっ、ぶつかった。ベルダン船から投げ出された人をそのままに、大型船とアルトンからの船はベルダンへ入港していった。カロネード砲で人を撃っていた自身を棚上げして思いやりを説くのも有りだが、遠くから観察することにしよう。


 ……南へ泳ぎ、陸に上がった彼らは、なぜかそのまま南下した。用意の良いことにマントを羽織って。ニコラやボロトのように獣耳が2人の男と小柄な女だろう1人。あっ、くびれが見えた。マントの下はとても薄着なようだ。女の横腹に爛れた痕がある。特徴を覚えておこう。




 日の出まで眠れなかったので作業しバラまいて時間つぶしをしていた。そろそろベルダンに向かうかと近づいていくと、ワーツェルの大型船の前で、人だかりができている。


「待って! テアを放して! テア!」


 ニコラとボロトが数人がかりで取り押さえられているようだ。テアはワーツェルの船に連れ込まれるところだった。ニコラがこちらに気づき「テアを、助けて」と口を動かした。彼女の顏は、涙で濡れていた。


 両方のカロネード砲で羽板とマストを吹き飛ばす。次いで舷梯げんてい――タラップを撃ち抜いた。マストが轟音とともに海面を叩き、羽板周辺の木が弾け飛ぶ。ニコラたちを拘束していた者たちにも動揺が広がり始める。放水のストレートに切り替えておく。

 再度、前方のカロネード砲をため始めると、ワーツェルの船から杖を持った者が複数、船尾で詠唱し始めた。バカかこいつら。主砲で狙われているのに、じっとしているとか。

 テアがいない事を確認できる位置の杖持ちを撃ち抜く。船上は阿鼻叫喚となった。後方のカロネード砲の放水で、ニコラたちの周りを吹き飛ばしておく。ニコラたちの声ならばテアは返事するだろう。


『”1回の攻撃で10体以上に当てる”のアチーブメントを獲得』


 ワーツェルの船から飛び降りる者が出始めた。海面から顔を出した都度、撃ち抜き、戦意を削いでいく。何人かは絶望を湛えた顏をしていたが、特に問題ないだろう。


 ワーツェルの船の浸水で半分ほど船体が沈み、船上に残された者たちは武器を捨て、両手を上げていた。撃ち抜く。船から押し流され着水した者を、呆けた顏で見た者を撃ち抜く。

 テアを拘束している者へ砲口を向けると、「動くな、動くとコイツを殺すぞ」と言い始めた。仕方が無いので他の者たちを撃ち抜く。


 あとは、お前だけだ。


 再度砲口を向けると、両腕を垂らしテアを解放した。よって撃ち抜く。キョトンとしたテアがニコラたちの元へ移動するまで、しばらく誰も言葉を発しなかった。







「えっと、ありがとう。テアを助けてくれて。あなたがいなかったらテアは連れ去られていたわ」

「ありがとー」

「あの放水は、どのくらい出せるの? って聞いても答えられないわよね、うーん」


 俺たちは今、アルトンへ向かっている。ニコラから「全速はダメ!」と強く言われたので、話せる程度には、ゆっくり進むことにする。放水しながらの航海は、言葉を交わさずとも3人と近づいた気がした。

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