イフ
第11里 歓迎 ▷ 円
アントンの港は、積み替え港が大部分を占める港湾だ。旅客の乗降や貨物の荷役・保管といった水陸輸送の転換機能を有するターミナルへと造り替えているらしい。慌ただしく人が行き来していた。船舶の係留は北側で行うようで、他の資材を積んだ船にぶつからないように移動する。
全長20mを越える客船が横を通り過ぎる時、興味を引いたらしくニコラたちに質問をしてくる者や無言でジロジロ見ている者もいた。
テアたちが上陸する頃には、日が少し傾いていた。ちなみに昼食はホットドッグのようなモノ。ライ麦パンに切れ込みを入れ、干し肉とタレが挟んである。テアがポロポロとくずを落とすので気になって仕方がなかった。
「一応聞くけど係留する?」
ニコラが聞いてくる。砲を左右に振り、断っておく。ベルダンの二の舞は御免だ。
テアたちは2泊するらしい。「2日後の朝、出発よ」とニコラに言われたが、何をして過ごすか。船の出入りが多いので、空きを待つ船がいるな。
すれ違う船から変な目で見られながらも隙間を縫うように進み、沖に出た。
爆雷を撒き、船体を洗いながら考えてみよう。
せっかく沖に出たのだから航行距離を稼ぐか。ワーツェル方面の索敵も兼ねて。アルトン近くで、カロネード砲を乱発するわけにもいかないだろう。島に戻ってみるのも良いか。緩やかに加速し東に向かうことにした。
夕日を背に島が見える距離まで近づくと、ワーツェルから島へ大型の帆船が5隻移動していた。島から黒い煙が上がり始めている。テアたちが燃やしたのもあの辺だったか。幸い島を挟んで反対側にいるが、近づけば見つかってしまうだろう。
……遠距離から先制してやるとしよう。
島に両方のカロネード砲を向け、ためずに撃ってみる。弾は極小サイズを意識して。乾いた音ともに撃ち出された1cmの弾は、ワーツェル船の軌跡に落ちた。距離よし。ため開始。
20秒ためた状態でワーツェル方面に進みながら、見つけ次第撃つ。1発で沈めば、2隻落とせる。さぁ、島の南北どちらから出てくるかな?
南から1隻……命中。次は南北同時か。ワーツェル側の南を撃ち沈める。
再度ためつつ島の南へ移動すると、他の船より派手な帆の柄の大型船が、島の入り江から出て、北に向いた後ろ姿だった。なんだアレ、帆にワーツェルの国旗が描いてある。良い的だ。お、こっちに気づいたのか旋回しようとしている。待つわけもなく撃ってやると、ちょうど横っ腹に着弾し、撃沈してやった。
泳いで島に上がる者や、こちらに泳いで来る者、破片に捕まり白布を振る者など様々いたが、すべて無視して島の入り江に近づいていく。砂浜は足跡がたくさんある。ヤドカリの姿は見えない。うまく隠れてやり過ごしたのかもしれない。
後ろで爆発が起こる。爆雷に触れたモノがあったのかな。
『”100人をいたぶる”のアチーブメントを獲得』
あ、はい。
『進化項目を選択してください
——砲
——門
——翼
――波 』
困った。現在、火力不足は感じていない。保留できるならしておきたいところだが……。
『選択されませんでした
任意の進化が 1回 可能です』
できるんかい。項目の文字を考えないようにすれば保留できるようだ。必要な時に必要な進化をする方が良いだろう。
帰りしなに残りの2隻も沈めておいた。結構な人数が島に泳ぎ着いているが、大丈夫だろうか。悲鳴が聞こえた気がする。ヤドカリが追加されたか。
針路を北東にとり、陸地を目指すことにする。北から北西に帝都ミルフレノアが、西にアルトンがある事は分かっている。先に内陸の海の出口を見ておこう。
夜になり、しばらく航行すると、明かりが見えてきた。灯台かと思ったそれは、海門の上に建てられていた。陸路にもなっているようだ。帆があったらつっかえていたな……下手に選択したら出れなくなりそうだ。人は、いないのかな? もう少し近づいてみよう。
「明かりも点けない船が来るぞ!」
「どれだ……でかいな。帆の無い船、折れて流れてきたのか?」
「船長は、いるかー?」
あ、見つかった。1キロ程度は離れていたのにな。水門のアーチ部分の隙間から監視していたらしい。数名が水門から出て明かりを用意し始めた。しれっと離れてしまおう。
「離れていくぞ! 応援を呼べ!」
何やら面倒なことになってきたようだ。水門付近に松明が焚かれ明るくなっていく。水門の奥から小型船が数隻現れた。あれ? どんどん出てくる……奥にどれだけいるんだ。
このままアルトンへ向かっても良いが、あえてワーツェル経由で押し付けることにしよう。
明け方。島の近くまで追いかけていた船は諦めて帰っていった。島の残党に小型船が近づく船もあったが、助けるまではしないようだ。こちらへの追跡が無くなったので悠々航行することにする。
アルトンと島の中間地点に差し掛かると、アルトンへ向かう船が南北にチラホラ見かけるようになった。
遠目に見るアルトンの港は活気づいていた。ひときわ大きな船では紙吹雪が舞い、テープが大きな船と見送り客とをつないでいた。昨日は見なかった船だ。50mを超える客船。祝砲が撃たれると、歓声が上がっていた。そして――
ヒューーーーーーーーーーーー……
――こちらのほんの1m前に着弾した。実弾か。慌てて離れて様子を見ていると、客船が出航してすぐに、なぜか90度進路を南に変えた。進路には山しかない。ぶつかるのでは、と思っていると、急に客船を越える黒い円が出現した。
客船が速度を緩めず黒い円に飲まれていく。沖から客船が見えなくなってしばらく、今度は港の奥で乾いた音がリズミカルに鳴り始めた。今日はお祭りなのかもしれない。
それにしても客船はどこへ消えた? ワープのような事が、この世界には起こりえるのか。テアたちが黒い円を利用する時、入ることができるだろうか。もしかすると別の大陸に繋がっているのかもしれない。
これからの航行に思いを馳せながら沖でまったりと過ごしていた。
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