第9里 共有 ▷ 離脱

 昼過ぎ。島に戻ると、食事中だったのか3人が火を囲んでいた。干した魚を食べていたようだ。

 あらら? ボロトがテアを島の奥へ急いで連れて行った。どうしたのだろう。スクリューを逆回転させ停止すると、追いぬいた波が砂浜をさらっていった。


「波は連れ戻らなくていいの……って厄介なのも連れてきちゃったわね」


 ニコラの視線の先、後方の空を見ると、何かチカチカと光っている。狙撃するか、と砲を向けようとするとニコラに静止された。「今撃ったらテアが危険だから」らしい。

 しばらく島上空を旋回した後、緑十字の国の方へ飛んでいく生物はミミズクのような形をしていた。真っ黒に見えたが、アレは何なのだろう。


「偵察用の影まで飛ばしてくるなんてどこの……ワーツェルね」


 ワーツェル? 国名なのか街名なのか団体名なのか言ってくれると良いのに、ニコラは島の奥へ駆けて行った。偵察をされたという事実からテアたちは移動するのだろうか。そして――


 ――いつまで彼女らと行動するのか。


 ちゃんと決めないとな。3人と行動を共にすれば色々な情報を得られるかもしれない。何か問題を抱えている風でもある。偵察という語を聞くとなれば、戦闘が予想される。せっかくの関係を切ってもよし、保つもよし。そも行くても無いし。


「テア様に、力を貸してほしい」

「おねがい。私たちには、あなたの力が必要なの」

「ねー、いっしょにいこー?」


 3人が島の奥から戻ってきて言う。テアを使い、情に訴える形をとっているともとれる。精神が人だからといっても体は船だ。武器として移動手段として使われることはあっても友人には成れない。一度敵対すれば、ただ破壊されるのみだろう。

 そういえば船の体は破壊された時、どう直すか。現状、修復は進化に頼るしかない。テアたちは船の損耗を見ても、直す道具も素振りもない。現状の装備で乗り切るしかないだろう。

 情勢に、流通、文化に人種、差別や権利問題……何にしても情報が足りなさすぎる。今は「乗れる船には乗る」ときだろう。例え泥船だろうとも。


 沈黙しているとニコラたちは顔を見合わせ始める。砲を上に向けシャワーを浴びせてやると、ずぶ濡れになりつつ顔を綻ばせた。

 太めの枝や干した魚などを積み、島を緑十字の国から離れるように、舵を取るらしい。

 行先は島の北東から西に広がるニーベンダン帝国。現皇帝が最近、複数の地域や民族を統治したそうだ。広すぎて横断するのに半年もかかるそうだ。北東は狭い海路から果ての無い海が広がっているらしく、隣国同士で小競り合いが絶えないと。こっちの世界の国も、いがみ合っているようだ。


 3人がわたしに乗ると、なぜか中央の丸太につかまった。天気良好、波も穏やか。静かに離岸し後進していくと、ニコラが静音性と揺れの少なさに困惑していた。テアはボロトと中央の丸太との間に座りキョロキョロしている。

 針路を西に取る頃、「南東の空に黒い影がいるわ。速度を上げられる?」とニコラが聞くので、後方のみキリで答える。偵察の鳥型がまた飛んできたらしい……見えん。ニコラが黄色い光を目に集め見ている。視力を向上するのだろうか。


「できるだけ早く着きたいのぉぉぉ!?」

「ぜんそーく、ぜんしぃぃぃ!?」

「んっ、ぐぅぅぅ!?」


 3人が何か言い始めたが、気にせず急加速する。ボロトが2人を押さえ丸太に捕まっているので問題ないだろう。

 水しぶきがかかったのか、ニコラとボロトの顏から雫が飛んでいた。




「……もぉ、何なのよぉ」

「おもしろかったー」


 夕方。島から西にある港町ベルダンへ寄港した。石造りの港に大きな倉庫も並んでいる。中継港なのだろう。平野部に住居が少ない印象だ。

 停泊している大型船の数は4。ガレオン船のような大きさは無さそうだ。

 3人とも髪がボサボサになっている。テアは面白かったようだが、他2人は撃沈している。

 よろよろと立ち上がったニコラが指示するさん橋に停泊する。本当はいかりをおろすのだろうが、意思を持って動ける自身には不要だ。


「私たちは情勢を調べてくるわ。もし待っていてくれるなら、北にあるアルトンって街と帝都ミルフレノアに行きましょう。」

「いってくるねー?」


 2人の言葉に砲の上下でこたえる。さすがにキリを噴き出したら変だろう。他の船や港の水夫たちもチラチラこちらを見てくるし。木造船の中で灰色の船は目立つらしい。

 案の定、見物に来る者が出始める。触ろうと手を伸ばしてくる奴もいるので2mほど離れると、わざわざ自前の船で近寄ってくるのまで現れた。後ろを抑えられる前に一度離脱する。


 そこからはシューティングゲームだった。泳いでまで近寄ってくる。実弾ではアレだからと放水していたことも悪かったかもしれない。一人また一人と我がカロネードの餌食にしてやった。後々、善意からの行為だったらしいことを告げられるが、知ったことではない。


『”1人をいたぶる”のアチーブメントを獲得』

『”10人をいたぶる”のアチーブメントを獲得』

『”1000km航行する”のアチーブメントを獲得』


 はーい、調子に乗ってましたー。衆人環視の中で進化して良いものか。


『進化項目を選択してください

 ——砲

 ——門

 ——翼

 ――波(破損修復)      』


 困った。現在、後方には誰もいないので選ぶとすれば波だな。波、波。


『波が3回選択されました

 進化終了まで3.2.1……終了』


 1度目。銛が復活した。ずいぶん長い間ボロボロだった気がする。

 2度目。銛の筒が一回り大きくなった。色は変わらない。

 3度目。筒の大きさがさらに大きくなった。内部には球状の何かが装填されている。爆雷か? 2×2の4本。まさかの進化だった。

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